阪神大震災が起こったとき、私は高校を卒業する直前だった。これまで、たくさんの災害の話は聞いたことがあったけれど、初めて目の当たりにした大きな破壊をもたらした自然による災害だった。私は東京に住んでいて、そのまま東京の大学に進んだ。
学校に兵庫出身の女の子がいた。新入生だった私たちはみんな自己紹介をし、いろいろな人とちょっとずつ話し、すこしずつなじんでいくという作業をしていた。
ある時、その女の子は本当にいやそうにそういった。新しく知り合った人はみな一様に彼女に地震大丈夫だった?と聞く。
彼女の家は多少の影響は受けたけど大きな被害はなかった。関西方面の大学に進学する予定だったけど、震災の影響で東京の大学に切り替えた。彼女に大きな被害はなかったので、その意味では大丈夫。でも、知っている人たちを何人か亡くした。その中には、過去につきあっていた彼氏もいた。
彼女は大丈夫だったから、そこにいて、学校に通っている。でも、地震の影響で変わってしまったこと、なくしてしまったことがたくさんあった。
新しく知り合った人に大丈夫だった、と聞かれれば、家が少し壊れた話、進学先を変えた話をする。でも、それ以上の話はしない。
私は昔の彼女を知らないけれど、どこか覚めた人だった。関東人には標準語を話す人だった。優しい人だったけど、甘えない人だった。びっくりするような話をさらっとする人だった。そして私よりうんと大人だった。
これから、被災した人たちも新しい生活を始めるのだと思う。新しい街で生活を始めて、新しい知り合いとたくさん話しをすることがあるのだと思う。
そしてたくさん、たくさん「大丈夫だった?」という問いかけをされるのだと思う。聞く人たちは本当に心配して聞くのだ。
悪いことではない。聞くなとも言えない。