2019-07-18

婚約者は制止を振り切り戦場に行きあっというまに殺害された。

取材経験もなしにプレスカードもなしにカメラの使い方もしらずにスクープどころか記事一本も書かずにばらばらになってしまった。

あれから25年が経つ。

彼女が落命した内戦の地は今は平和だ。けっして安定してはいないが。

いまでもその国のニュース毎日チェックする。

よいニュースによろこび、悪いニュースに涙する。

だいぶ前から禁酒をしている。

戦場ストレスアル中になる記者は多い。

そうなったらいやだ。

そんな依存症で苦しむより戦場ミサイル食らって死ぬほうがいい。

ひさしぶりに旧友と痛飲し、帰宅のため玄関先で立ち上がった。

とつぜん意識がとおのき膝が折れ右半身と首をコンクリートに打ち付けた。

私は倒れていた。

ひんやりとしたコンクリート匂い感触

撃たれたと思った。

ついに、やっと、ほんとうにやっと私は撃たれることができた。

苦痛はなかった。人は脳か心臓か大動脈破壊されると眠るように崩れ落ちる。

やっと俺も撃たれた。

やっと俺も撃たれたんだ。

やっとみんなといっしょになれる。

やっと彼女のいる場所にいける。

しかった。

ほんとうに嬉しかった。

みんなみんな撃たれて先に行ってしまうのに、いったいなぜ自分だけ生きているんだと、そんなことばかり考えながらの人生だった。

やっとそれが終わった。

へんな責め苦がついに終わった。

でも酔いが覚めて意識がもどり状況を把握した。

自分がまだ死んでおらず、撃たれてすらいなくて、たんによっぱらって昏倒しただけだった。

とても悲しくなった。

みんなに会えるまであと何年いきなきゃならないんだろう。

遠い昔に別れた仲間のために"What a Wonderful World"を歌った。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん