2009-09-24

ニコニコ動画削除問題 - デジタルコンテンツの真の問題

インターネットの発達で、紙の本や雑誌は滅びる――そういわれてから何年たつだろう。そしてそろそろ事態が動きはじめたかと思われる節がある。まずグーグル世界的にすさまじい量の書籍電子化に乗り出した。コンテンツはこれでかなりの蓄積ができた。またリーダー機器の面では、日本では未発売だがアマゾンコムキンドルという電子ブックリーダーを発表し、一定の成功を収めている。流通も、アマゾン電子ブック販売や、アップルiTunesストアなどが手法をほぼ確立しつつある。

だがその過程で、電子メディア特有の問題も次第にあらわになりつつあるようだ。それを示す事件が最近立て続けに起きている。

アマゾンコムキンドル用に、オーウェル1984年』『動物農場』の電子ブックを買った人は、6月に驚愕した。版元に問題があったから、としてこれらの本が手元のキンドルから勝手に消し去られていたのだった。いったん買った本や雑誌ソフトが、自分本棚パソコンから勝手に消し去られるなんて、これまでは物理的にもありえない!

アマゾンは、この対応について平身低頭し、二度とやらないと宣言した。が、そもそもそんなことができるということ自体に多くの人が戦慄した。そしてその舞台がまさにそうした情報統制社会の恐怖を描いた『1984年』だったとは、なんたる運命皮肉か。

一方アップルは、オンラインiTunesストアで販売されるiPhone/iPod用のソフト健全性に、たいへん神経を使っている。わいせつ語が入っているソフトは、軒並みアダルト指定を受ける。先日、なんと普通英語辞書がこれを理由に改変を要求され、ストアへの出店を拒否された。アップルは対応のまずさを認めたものの、方針にはいまのところ変化はない。

わが国では動画投稿サイトニコニコ動画が同様の問題を示した。酒井ノリピーの昨今の騒動を受けて、彼女替え歌を歌唱ソフト初音ミク』に歌わせた動画が投稿された。ところがなんとその歌唱ソフトメーカーであるクリプトン・フューチャー・メディアが、そんなことに使われたら自社ソフトイメージダウンだ、と称して削除を要求したのだ。

当然ながら彼らはそのコンテンツについて何の権利ももっていない。が、信じられないことに、ニコニコ動画を運営しているニワンゴは、この無根拠な抗議にあっさり応じて、問題の動画を削除してしまった!

ニワンゴ経営陣でもある西村博之がこの対応に疑問を述べ、その後同社は、問題の動画を復活させた――投稿者に対する自主検閲を促すコメントつきで。

ネット著作権無視の違法コピーが横行する面ばかり取りざたされることが多い。でもじつはデジタルコンテンツの真の問題は、コントロールができすぎてしまうことなのだ。今回取り上げたケースが如実に示しているように。

これはネット法学の第1人者ローレンス・レッシグの10年前からの主張だが、それが急激に現実味を持ち始めている。紙媒体では物理的にできなかったことが、デジタル媒体では平気でできてしまう。そのとき、いま当然と思われている権利や自由があっさり破壊されかねないのだ。

いま多くの日本コンテンツ運営業者は、抗議があればそれが正当なものだろうと不当なものだろうと、人に不快感を与えてはいけません、といった低級なお題目の下に問題のコンテンツをとりあえず消して、ほとぼりが冷めるのを待つ、というのがありがちな対応だ。ニワンゴの対応はその好例だろう。ブログ罵倒合戦くらいならそれでもいい。

だがデジタルメディアが紙媒体を置き換えるなら、紙媒体で建前にしても重視されている規範をどう維持するのかも考えるべきだ。目先の個人的な快・不快なんかより重要なことが世の中にはあるんだから。デジタルコンテンツも、それを考えざるをえなくなりつつあるのではないか。そしてそれを私企業倫理だけに任せられないとしたら、どんな規制がありうるだろうか?

じつは今年、そのヒントになりそうな出来事がもう1つあった。脳科学者の肩書で各種メディアに頻出している茂木健一郎が、ネット上のボランティア執筆による百科事典ウィキペディアでの自分に関する記述に文句をつけ、それをかなり我田引水なかたちで大幅に書き直した。それに対して項目執筆者たちはひるむことなく、ウィキペディア執筆ルールに基づいて茂木の苦情に形式的には対応しつつ、ほぼ従前の記述を復活させて、誠実な対応とメディアとしての中立性を見事に両立させたのだ。

こうしたネット上の自主的な倫理規範も多少の可能性があるのでは? むろん、それがどこまで公的な権利保護規制を補完代替できるかとなると、まだまだ考える必要はあるのだが。

http://news.goo.ne.jp/article/php/life/php-20090919-02.html

  • 他のはともかく初音ミクの例はデジタルコンテンツの問題点じゃないだろ。 健全使用限定でディズニーからミッキーマウスの使用権許諾を受けていた企業が、ミッキーの猥褻画を雑誌に...

    • おまえ何もわかってないな。 それが問題になってるんだろうに。 法的にはディズニーはその雑誌社に命令できないんだけど。 頭悪いなお前(わらい

      • 法的な命令だなんて一言も書いてないが? 権利と義務の間には裁量の幅がある。出版社はディズニーの「求め」に応じることもできるし断ることもできる。今後の交際や利害関係を考え...

        • いや、だからさ・・・w 配信型のデジタルコンテンツだからこそドワンゴは簡単にニコ動から動画を削除できたんだろ? これが販売された雑誌や書籍なら、1冊1冊回収することになり、...

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