その通勤快速は常に混み合っていて、体を隙間に押し込むようにしなければ乗る事も降りる事もままならない。
いつものように体を隙間に押し込むように乗り込もうと瞬間、空間に投げ出された。
龍の巣を抜けてラピュタに辿りついたような。そんな気分だった。
人混みを抜けた安堵感に心が満たされた次の瞬間、鼻腔を異臭が満たした。
空間には俺の他に男がいた。まるまると太った体躯、大きなリュックサック、そして何より臭かった。
エアコンがかなり効いているにも関わらず彼は滝のような汗をひっきりなしにかき、着ている服はいつ洗濯されたのかも分からないほど黒ずんでいた。
この異臭はどこか懐かしさを感じる匂いだ。そう、博多ラーメンの店の前を通る時にこんな匂いがしなかったか。
目眩のするような悪臭に気が遠くながら、彼もことを色々考えた。何故こんなに臭いのに平気で電車に乗れるのだろう。
迷惑とは考えないのだろうか。彼なりの社会に対する復讐なのだろうか。
俺はバッグから汗ふきシートを取り出すと匂いの主である彼に突きつけた。
「もう十分だろう。これで汗をふけよ」