始発駅で座るためにわざわざ1本見送った。
次の電車では端には座れなかったものの、座席の真ん中に2本ある柱のうち一方の横に座ることができた。
二駅目でドアが開くと、身長170cm前後、体重70kg以上と思われる小太りでハーフパンツ姿のオタクが乗り込んできた。
黒いナイキのスニーカーと黒いナイロン製のリュックサックという出で立ち、それにスマホを片手にひょこひょこ歩いている。
空席は何箇所かあったが、オタクは私の横にどさっと座った。
しばらく彼はスマホをいじっていたが、そわそわして落ち着かないようだった。
突然、彼は柱に手を伸ばした。
電車の揺れから体を支えるために掴むという動作は理解出来る、たとえば肘を曲げて肩の辺りで支えるという格好ならば。
しかし彼は肘をぴんと伸ばし、握りは頭よりもかなり上の方を取った。
その様子は小学生が授業中に発言権を得ようとするかのようでもあった。
一瞬驚きはしたが、私はその状況に慣れようと努めていた。
だが、彼はなお落ち着かない様子だった。
柱を持つ高さがしっくりこないのか、何度も握りなおし、体をねじったり揺すったりしている。
隣で動きまくるオタクは目障りではあったが、他者に対して寛容でありたいという信念が私を支えてくれた。
だが、そうも言ってられなくなる。
端的に言って、彼はものすごく臭かった。
私は息を止めた。
しかし苦しくなって息を吸った。
彼は臭かった。
私は思う存分呼吸できずにまた息を止めた。
彼は臭かった。
一駅がとてつもなく長く感じた。
その後、彼は乗り換えのためか電車を降りて行った。
ハーフパンツじゃなくてもガリでもお宅は臭いぞ