2018-03-23

「いつもありがとう

握手会の列に並ぶその時間。緊張と高揚感と不安と期待と。いろんな感情を抑えるように自分の手を握りしめる。

今日はなんて言おうか。10秒もないその時間に、何をどれだけ伝えることができるだろうか。

私の番になって彼の顔を見た時、彼がニコリと笑いかけてくれた。それが笑顔を見せようと思って作った笑顔なのか、反射的に出た笑顔なのか。そんなの知る方法なんてないけど、後者だったらいいな。

彼の手に触れ、まずはいつも通り「ありがとう」言葉を言おうと口を開く。しかしその前に聞こえてくる声。

「いつもありがとう

ずっと聞きたかったその言葉。心做しかいつもより嬉しそうなその表情。それら全てが、なぜか私の心に影を落とす。

とうとう、覚えられてしまった。彼の記憶海馬に私が入ってしまった。それがなぜだか彼を汚しているように思えて。

覚えてもらえたら嬉しいなってずっと思ってたのに。いざ覚えられたらこんなにも拒絶の感情が湧く。所詮その程度の推し方でしかなかったのかな。けっこう好きだったんだけど。

その日はきっと「ありがとう」しか言えなかった。「さようならもつけた方がよかったかもしれない。

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