2014-04-29

子どもを持たなければ分からない感覚があった

「きっとこの瞬間を思い出してしまうだろう」

年老いて死の淵に立ったとしても、誰もが自分のもとを離れ孤独であったとしても。

8ヶ月になる娘は、ぼくに新しい経験ばかりを届けてくれた。

子どもが生まれれば、それで父親になると思っていた ぼくの予想は完全に裏切られてしまった。

片手に収まってしまうような君が、はじめて哺乳瓶からミルクを飲んでくれた時、腹の底からグッと体が暖かい熱でつつまれたような感覚だった。

ぼくはそれに何て名前をふっていいか分からなかった。

新しい生活は、一人では、触れたことのなかった感触で満ちていた。

妻と君は、ある意味でぼくを救ってくれた。

自分の予想の範疇を波風なくこなしていた僕に、新しい世界が顔を見せつづける。

今まで知らなかった満たされた感覚や、思い通りになってくれない歯がゆさや、身を切られるような心配を僕に与えてくれた。

僕は、君のまだ言葉理解していない笑顔を見ながら時々思うんだ。

「きっとこの瞬間を忘れられない」

死ぬ時にもきっと思い出してしまう」

それだけ、僕に君の跡は焼きついてしまった。

いつか、僕たちのもとを離れ、遠くへ歩いていってしまうけれど。

この幸福呪いのように強く僕を律し続けるだろう。

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