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2008-12-13

http://anond.hatelabo.jp/20081212233028

世にも奇妙な物語

A君は、とある国内大手自動車メーカー期間工だった。働きぶりはとても熱心で、通常は誰からも気に留められることのない期間工ながら、正社員である現場監督にもわずかばかりの評判が伝わるほどであった。これはとても珍しいことだった。工場期間工連中ときたら、酒やパチンコ競馬競艇などに入れあげたあげく、金融機関から借金を重ねている者も少なくなかったからだ。正社員たちは言うまでもなく、A君も、そういう同僚たちを少なからず軽蔑していた。

A君は、そんな同僚たちとは裏腹に、どう逆立ちしても多いとは言えない給料の一部を毎月着実に貯金へと充てていた。そしてそれが一定額以上貯まったとき、念願のノートパソコンを購入してプログラミング勉強にいそしみ始めた。同僚たちが街へ酒をあおりに行っている週末の晩も、彼はプログラミングに没頭した。

A君がたまたまインターネットで公開したオープンソースプログラム世界中から高い評価を受けだしたのが、A君がプログラミング勉強を始めてからわずか半年後のことだった。A君のところには、各種メディアから取材申込が殺到するようになった。こんなことがあると、通常は同僚たちから妬まれたかもしれない。でも当の同僚たちは、プログラムとは何かすら理解しておらず、ましてやパソコンさえ触れたことのないような連中ばかりだったので、妬みようがなかった。

付け加えるなら、A君が所属していた工場のトップは、自身の作業環境をここぞとばかりにマスコミに向け自慢したものだった。「ウチでは、自己啓発の機会もあるんですよ!」むろん、A君個人の努力にはいっさい触れずに。

A君のプログラムの評価は加速度的に高まってゆき、大企業の基幹システムへの採用で前代未聞のパフォーマンスをたたき出したという成功事例が報告されるまでになった。

そんなA君のところに、アメリカの、いや、世界的に有名な技術系の大学から留学の誘いのeメールが届いた。その上、無審査奨学金を、入学金や居住費などを含めた全ての必要な額の分支給するとまで言うではないか。A君がそのオファーを受け入れたのは言うまでもない。A君は、勇躍アメリカへと旅立った。

・・・早いもので、A君が留学してからもう4年が経った。

A君は、留学先でその天才的な才能遺憾なく発揮したため、たった4年間で修士号まで取得してしまっていた。A君は、期間工だった自らの境遇などすっかり忘れていた。これからはこの才能を生まれ故郷日本で活かすときだ、A君は真剣にそう考えながら帰国した。

おりしも、A君が留学していた間に、アメリカの大手証券会社の破たんに端を発する世界的な経済不安日本を支配していた。ネットニュースでも、派遣労働者が多く解雇されたという話題が流れていた。ふと、A君は以前の自身が置かれていた境遇を思い出した。でも、今の俺はあの頃の俺とはまったく違う。A君は、不幸な目に遭う過去自分と同じ境遇の者たちがあたかも他人事であるかのように、ザマアミロという感情さえ抱いていた。

とはいえ、A君も早く働き口を見つけなければならない。A君は、自分能力をもってすれば、少なくともIT企業には破格の厚遇で就職できると信じていた。しかしながら、ネット就職サイトでも、エージェントに頼ろうとしても、まるで門前払いのように拒否をされ続けた。

実は、A君が帰国したのは、経済不安の収拾に失敗した前政権が交代した直後の時期だった。経済不安は、言うまでもなく国家財政にも甚大なインパクトを及ぼしていた。そこで、現政権は思い切った政策を打ち出した。なんと、税収の確保のためになりふり構わぬ姿勢を取ったのだ。具体的には、禁煙行為の禁止(⇒たばこ税収入増の効果)、飲酒運転および飲酒勤務の許可(⇒酒税収入増の効果)、公営ギャンブル奨励と増設(⇒馬券車券等の収入増の効果)、といった施策である。

A君は、その数々の驚くべき施策を知りあっけに取られた。ふと、昔軽蔑していた同僚たちが今どうしているのか気になった。A君は、当時のケータイにまだ残っていた番号に電話を掛けてみた。電話の向こうの元同僚はいくぶん誇らしげな口調で言った。「今職務中でさあ、ちょっとカンベンしてくれない?んープレミアムビールうめぇw」A君は電話を切られそうになったところを、もう少し食い下がって聞いてみた。彼は、今では国の出先機関のスーパーバイザーのような役割らしい。その他の同僚たちも、同じような職場を得たとのことだった。「俺らさあ、酒とかギャンブルとか大好きじゃん。借金もしてたし。だから国家財政への貢献度が高いとかナンとか言われてさあ、マジわかんねーんだけどw・・・」その後のコトバはA君の耳には聞こえてこなかった。

A君は、自身の置かれた立場の著しい不利にやっと気付いた。俺の4年間は何だったんだろう。期間工という立場を憎み続けた俺は何だったんだろう、と。そしてA君は、やがて来るであろう巨額な奨学金の返済請求に戸惑い、身震いするのであった。

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