2007-08-08

涙の理由に気付いてはいけない。

 

後輩たちにつきあって飲み会。一緒に散々騒いでゲラゲラ笑って、ぐったりした帰り道。楽しかったよありがとう、と社交辞令半分で送ったメールに返信されてきた、先輩への儀礼溢れるメールをニヤニヤしながら読んでいたのに、急に泣けてきて、それがなぜだか分からなくて、びっくりしながら恐ろしくなる。これは何だ、これは何だ。一体どうしたって言うんだ。ボロボロ泣きながら、そんな自分を心配してる自分。みんなとワイワイ騒いだ後で、独りになると寂しい気がする。そんなことなら、小さく溜息でもついて、テレビ付けたり、本読み始めたり、買い物に出かけたりすれば、それでやり過ごせる程度のことのはず。

だけどこれは違う。胸を締め付けられるほど悲しくて、何が悲しいのか分からない。みんな楽しそうに生きてるのに、自分はこうして独りだから? 同年代のみんなは結婚したり、子供がいたり、会社経営したり、それぞれ何者かになりつつあるのに、中途半端な自分はそのうち身の置き場がなくなりそうだから?

いろいろとそう言うもっともらしい原因を列挙して、更に突き詰める。寂しいのか。単純に寂しいんだ。誰かそばにいて欲しいんだ。だから最近急に友達作りに励んでみたり、久々に旧友と連絡取ったりしてるんだ。でも、そんな事じゃ満たされないことが分かるから、素に戻って泣けてくるんだ……。

……嘘だ。全部嘘だ。この年代にありがちな悩みだとか、新聞コラム雑誌の記事にでもありそうな、そういうことにしておきたいだけだ。本当は違う。独り言言う癖なんか無いのに「…そうじゃない、違う!」と口から否定の言葉がこぼれるほど、認めるのを恐れているだけだ。

寂しいのはその通り。だけど、理由は違う。みんなとワイワイ騒いでいても、本当に会いたいのはその中の一人だけだ。呼ばれてもいない飲み会に性懲りもなく顔出して、その人がいないととたんにどうでも良くなる。今日テンション低いんですね、などど鬱陶しいツッコミを入れられるのを防ぐために、いつもにも増して明るく、元気に。

たまに呼び出して、ニ人で食事する。先輩におごってもらってラッキー。気軽にそう思ってもらえるように気を付けながら。今度行く合コンの話とか、最近はまってることとか、できるだけ他愛もない話で。頻度が高くなりすぎて鬱陶しく思われないように、必死で調整する。それでも週に一回は呼び出してしまう。全然たまにじゃない。抑制、利いてないよ。でも足りない。

じゃあ、と別れるときには次にいつ会えるかで頭がいっぱい。その場で次の約束を取り付けたいのを必死で抑える。時間ある? と電話するときには、その日は都合が悪くて、と断られたときにこちらのがっかりが電話越しに伝わらないように、あらかじめ断られる想定で何回も明るい電話の切り方を頭の中で繰り返しておく。そのせいでOKだった時の方が、こちらのテンションが低いくらい。内心と正反対。

「この間借りた本、面白くって、はまり気味です。あの作家が書いた他の本、今読んでるんですよ」

「へえ、そりゃ良かった。返してもらうのも面倒だから、あの本あげるよ。捨てるなり、ブックオフに売っ払うなりしといて」

これでほんの少しでも、自分の痕跡を残せたかも知れない。いつか自分のことを忘れても、あの作家の作品は読んだことがあると思い返すたびに、自分のことも思い出してくれるんじゃないか。本当はそんなジャンルの本、読む習慣無いんだよ。一緒に食事ながら話してる間に、ヒリヒリするほど敏感に張り巡らせたアンテナで集めた情報で、この作家ならきっと気に入ると思って、初めて読んで、それから貸した。外してなかった。どうでも良さそうに返事したけど、本当は、身体中がジンジンするほど、うれしい。

「そうだ、今度何人か集めますから、飲みましょうよ」

「え、なんで」

「なにかとお世話になってるし、仕事大変そうだし、よく分かんないですけど」

「なんだそりゃ」

眉をしかめて苦笑しなから、申し出を聞く。天にも昇る気持ちだ。自分のためにそんなこと企画してくれるなんて。苦笑いの仮面を付けたまま、日程決めて、仕事段取り付けて、当日を待つ。その日のために生きているような、数日間。

迎えた当日。気の置けない数人と一緒に、飲んで、しゃべって、久々にカラオケ行って、朝まで。バカ騒ぎしながらも、自分に気を遣ってくれてるのが伝わってくる。何人かいる中で、自分にだけ気を遣ってくれている。歌の合間、会話の合間に「次、どうしたいですか」と決して言葉には出さず、さりげなく目線で自分の気持ちを探ってくる。それがこんなに気持ち良いものだったとは。もう何年も忘れていた。何だろう、爪の間から遡ってくるように、じんわりと痺れてくるような感覚。まともに目を合わせちゃいけない。泣き出すか、もっと大変なことをしでかしてしまうか、とにかく身を任せちゃ駄目だ。壊れる。

死ぬほど笑って、疲れて解散。帰りに、参加してくれた全員にありがとうメールを送っておく。入れ違いに、一通のメールが届いている。あの人からだ。簡単な、お礼と体調を気遣う内容。徹夜させたのはそっちだろ! と憎まれ口を返信しながら、涙が止まらない。ありがとうありがとう、どうして君はそんなに残酷なんですか。出会ってからちょっとしたことで簡単に笑うようになってしまいました。ささいなことでも嬉しくてしかたないと思うようになりました。自分が怒っていることにも、悲しんでいることにも気付いてしまうようになりました。許せない、許せない、正気の私を返してください。こんなことには、こんなことにだけはなりたくなかったのに。

泣いている理由なんて、考えなければ良かった。

終わらせよう。こんなことは。目を瞑って、時間が過ぎて、やり過ごせるようになるのを待とう。いくつか交わしたささいな約束も、抑えが利かなくて大げさになりすぎたメールも、気軽な優しさに満ちたそれへの返信も、時間さえ経てば、思い返しても苦笑いで済ませられるはず。装うんじゃなくて、本当の苦笑いで。今までだって、そうしてきた。今度もできるはず。そうするしかない、そうするしかないんだ。

  • 先輩、無理しないでー。 そしてYOU素直になっちゃいなYO! ダメなの? なんで?

  • こ、これはもしやエリクソン先生言うところの「親密性vs孤独」なのか…

    • 単純に何かの理由で忍ぶ恋になってるだけだと思うんですが…。 エリクソン先生のお話だとこう言うのも含まれるんでしたっけ?

  • なんでそんな自制してるん?

    • たぶん同性なんじゃないかなぁ。 http://anond.hatelabo.jp/20070808183635 http://anond.hatelabo.jp/20070808231408

      • 801脳の恐怖。後輩が結婚してるか、恋人がいるか、と言うだけのありきたりな話としか思えないけどな。 それから元増田は「涙の理由」として発見したその恋とやらが、実は自分で否定...

        • 後輩が結婚してるか、恋人がいるか、 これでは、最後のパラグラフが腑に落ちなくなる。 まあ想像で思うだけなら何とでも言えるのでそれは置いといて、 ありきたりな話としか思え...

          • 日本の同性愛人口は4万人程度。 衆参両選挙で出馬した同性愛者候補の得票数が共にそれだけだからコレは間違いない。

            • その候補者が出馬していない選挙区に済む同性愛者は、その候補者に票を入れたくても入れられないし そもそも同性愛者だからと言って、選挙で同性愛者の候補に票を入れるとは限らな...

              • 現役の同性愛者だが、選挙で同性愛者の候補になんか投票せんぞ。 ブッシュみたいな奴が首相だったら話は別だが、同性愛者の権利なんかよりもっと大事な問題あるだろ。 そーゆーこと...

          • えーっと、たとえ性別がどうであれ、特別な恋なんて無い、というつもりでしたが、確かにあの書き方と流れではそうは取れませんね。 すみません、趣旨は「本当は直視したくない問題...

            • えーっと、たとえ性別がどうであれ、特別な恋なんて無い、というつもりでしたが、確かにあの書き方と流れではそうは取れませんね。 やっぱり、あなたが知らないだけ。 すみませ...

              • 例えば相手が極近い血縁者だとか、同性だとか、そういうおおっぴらに口にできない対象だった場合、本人の陶酔感は自分も相手も最初からそれが許されるような環境(家族内の相姦が黙...

                • 何年かすれば笑い話になるよ。あー、元増田も自分で分かってるんだよね。ごめんごめん。 だといいな、とは思うけどさ、 元増田が真性のレズで、異性に興味を持てない人だった場合...

  • どうせ嫁が居るからとかそういうオチだろ?

    • でも、元増田は独り身っぽいじゃん。あー、相手に嫁がいるってことか。え、この後輩って男なの? あれ?

      • 元増田も後輩も女性、と推測。

        • ええっ! これそういう話なの?  ………それならそれで、いいんだけど。 それでこんなに押さえ込んでるのか。 じゃあ、相手も気がついてるんじゃないの? いや、俺には分かんな...

        • 女同士だと、こうはならないんじゃないかなあ…。

          • どうして、というか、どの辺でそう思います?

            • 女子が周りに声かけて、女の先輩招いて飲み会って、すでに不自然な気がするんだけど。 ここに書かれてるような気の置けない感じの集まりにはなりにくいんじゃないかな。 私の周りが...

              • 居酒屋やカラオケ屋で若いおねーちゃん(だけ)の集団を見ることは別に珍しくないような。 と言うか、その場合はここに書かれてるような感じの集まりにはなりにくいんじゃないかな...

  • 登場人物の設定がよく分かりません。 先輩と後輩というのは読めば分かるんだけど。 何でそんなに惚れてるのに、必死で押さえ込んでるのかもやはり謎。

  • 切なさが伝わってくる。 現実か虚構か知らんけどがんばれ。

  • 盆休み前にいいもの読ませてもらったよ。 今夜はひとりでうまい酒でものみに行きたい気分だ。

  • http://anond.hatelabo.jp/20070808180009 気持ち悪い。昔の自分を見ているようだ。自分ってこんなに気持ち悪かったんだな。そりゃ嫌われるのも無理ないか。

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