はてなキーワード: ヤマケンとは
「0.999999・・・ってさあ」
数Aの教科書をじっと眺めていた彼が、振り向いて言った。
「ん、何」
「1 じゃねーだろ」 「1 だよ」 「なんで」
休み時間は残り5 分を切っている。次の授業はヤマケンの英語だった。そろそろ単語テストの "仕込み" をはじめたい。
僕は教科書をひったくって読み上げた。1 を3 で割ると、0.333・・・。それを3 倍すると、0.999・・・。でも、この0.999・・・は1 を3 で割って3 倍しただけだから、結局は最初と同じ、1 に戻る。キューキューキューと連呼する自分がバカみたいに思えた。
「でもさあ」 「ん、何」
「キューキューキューってことはさあ、どこまで行ってもキューが出てくるんだろ?それってキューだから、イチとは違うじゃん」
「でも教科書にそう書いてある」 「違うと思うんだよ」
彼はこっちを向いて座り直した。本気だ。
「1 を3 で割ったら0.333・・・じゃなくて、3 分の1 だろ?0.333・・・のテンテンってなんか、数っていうよりルールじゃん。ここから先、ずーっと3 が並ぶぞって。3333」
彼はサンサンと鳴いた。
「ほとんどおんなじじゃん」 「ちょびっとは違うだろ。お前が0.999・・・のテンテンのとこにずーっと9 を書き足していってもさ、ヨッシャー、ついに1 ができたぞ、ってならないじゃん。やっぱ1 じゃねーよ」
もやもやした。でも、それは間違ってるだろ!という理屈もすぐには出てこなかった。
「じゃあ、教科書は間違ってるってこと?」 「そうだよ!」
彼は、彼の理論が教科書を打ち破った(あるいは、一見打ち破った)ことに興奮したようだった。キューキューはルール、イチじゃない、と繰り返している。
「じゃあ、イチじゃない、としてもさ」 「何だよ?」 「0.999・・・は、もう、1 にします。ってルールも作ったら、やっぱ一緒になるってこと?」
"仕込み" に失敗した僕の点数は0点で、彼と一緒に追試を受けるハメになった。放課後、数Aのヒョロ川のところに二人で聞きに行ったが「そんなことは考えんでええ」と追い返された。