中学生の頃、「家庭」の実習で使うために家からヘンケルの裁ちバサミを持って行った。
今ならヘンケルのハサミなんて珍しくもなんともないが、昔はそこらには売ってなくて、
授業が終わって道具を片付けているとハサミがなくなっていた。
なくしたのか? 盗まれたのか?
私の不注意でなくしたのだとしたら、その事で騒いではいけないと思ったし、
盗まれたのだとしたら、私が動揺している姿を犯人に見せたくなかったのだ。
この「動揺している姿を~」というのはどういう意味かというと、
当時私は一部の連中からいじめとからかいの境界線上にあるような扱いを受けていた。
嫌だったが、私がいやがったり泣いたりしたら奴らの思うつぼだと思い、平気なふりをしていた。
だからハサミが盗まれたとしたら、それはいつもの嫌がらせの一種だと思ったのだ。
バカだ。
不注意で失くしたのだとしても、裁ちバサミなんてそれなりに大きくて重いものなんだから見つかったかもしれない。
それをあれこれ考えて見栄を張って平気なふりをした。
あのハサミはどこへ行ったのだろう。