子供の頃通っていた公文式で、本棚に置いてあった将棋の漫画を読んだ事をふと思い出した。
その後将棋に興味を持ち、百均で盤と駒を買ってもらい、同日中に祖父と指したんだった。
確か自分が勝ったはずだ。ただ会社も経営していた彼が子供に負けるはずもないので、
当然手加減をしていたのだろう、そしてそれに気づかず私はぬか喜びをしていたんだ。
私は今棋士でもなく、ましてや趣味でさえもう暫く指していない、
それ自体が今の自分を形成するかと訊かれれば首を傾げざるを得ないほど、
全くもって意味のない記憶だが、私は確かに覚えている。覚えていたのだ。
そうした何かを与えられたという記憶と関連付けられて、
初めて私は祖父を亡くしていることを惜しんでいるような気がする。