2024-04-14

くすりや

薬局へ入った

ロロンとチャイムが鳴り、奥にいる二人の中年男性こちらを見た

一人は白衣を着た店主、もう一人はよれよれのワイシャツを腕まくりした小太りの男性だった

店主が長椅子にに座り、男性はその対面に、床に新聞紙を広げ、その上に正座していた

もう一つある長椅子と長テーブルが脇によけられている

ワイシャツ男性左手に黒い小さな手帳を持ち、右手に小さな鉛筆を握っていた

気まずい感じがしたので店を出ようとしたら

「ああ、いらっしゃい。ちょっと待っててくれる、もう終わるから」と店主が言った

すると男性が「いえ、私はこれで失礼します。ご協力ありがとうございました」と言って立ち上がり、

床の新聞紙を丁寧に折りたたみ、長椅子と机を元の位置に戻し、

店主にそして私に頭を下げると店を出ていった

「いやあ、ほんと助かったよ。開店からずっとだよ、3時間もいたんだから

「どなたですか?」

刑事だよ」

「えっ、事件でもあったんですか?」

「いやね、昨日、若い奴に咳止め液売ったんだけど、そいつがさ、事件起こしたらしいんだよ」

最近問題になってますもんね。でも、不可抗力ですよね」

「いやね、それがね、10本売っちゃったんだけどね、それ一気に全部飲んで、刃物持って暴れちゃんだって....」

「えええ、10本も、ですか...」私は絶句してしまった

「うん」と店主は蚊の鳴くような声で答えると、バツが悪そうに頭をかい

「ところで刑事さん、なんで床に座ってたんですか?」

「なんか太ってて椅子を汗で汚したら申し訳ないっとかって言ってたけど、ただの嫌がらせだよ」

嫌がらせ...、ですか...」

別に売るのは違法じゃないからさ、あっちも売るなって言えないじゃない、だから見せしめ、みたいなもんだよ」

見せしめ、ですか...」

「何回も何回も同じこと聞かれてさ、お客さんからは気味悪がられるし、まいっちゃったよ」

「そうですよね...」

「うちお客さん少ないからさ、ちょっと欲出しちゃってさ、でもまさか事件起こすなんて思わないよ...」

「そうですね...」

「ところで、今日は、何?」

「ええと、胃腸薬の...」


さすがに新製品の咳止め液の案内に来たとは言えなかった

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