湯の前で人は平等になる。
我々は日々、社会という闘いを生き抜くために色々な武装をして生きている。生きているだけでは、そのことに気づけないほどに、その重みは我々の身体に染み付いている。
入り口で靴を脱ぎ、「男湯」と書かれた暖簾をくぐる。その瞬間、少し軽くなる。
不思議なもので、男と女を区別するその暖簾こそが、僕を男であることから開放し、僕を「人間」にしてくれているのかもしれない。
脱衣所で服を脱いで、シャワーで全身の汚れを落とした時、更に身体が軽くなる。
軽くなった身体は僕を湯の前に連れて行き、そこに広がるのは、同じく「人間」の姿をした裸体の男達だ。だらしない身体をしたやつ、少し鍛えているやつ、加齢で皮膚が垂れてきてしまっているやつ。ここにはみんないる。
あの子にモテる為に買った服も、彼女に貰ったネックレスも、自慢する為に卒業した学歴も、必死に覚えたメイクも、湯の前に連れてくることはできない。
湯の中に連れていけるのは磨き上げたそのボディのみ。 さぁ、裸の戦いをしようじゃないか…