わたしは人よりちょっとだけ、記憶力がいいらしく、どうでもいいことをよく覚えていたりする。
今日久しぶりに会った人に、昔その人が言ったことを話したら、覚えていなかった。
わたしにとっては大好きな言葉だったけど、その人は「そんなこと言った?」と言って笑った。
昔その人に「君にぴったりの本だから」ともらった本がある。
その中の「8月に生まれる子供」が大好きで、何かあると読み返したくなる。
大学生の種山びわ子は、夏休みにはいったころから急速に老けてゆき、たった2週で老人と見間違うばかりとなる。
週に一度の恋人との約束も忘れ、姉の存在も忘れ、最後は自分のことも忘れてしまう。
祖母はまず、死んだ祖父を忘れ、嫁である母を忘れ、わたしのことを忘れ、最後には最愛の息子だった父親のことも忘れてしまった。