2013-10-08

若さゆえ

 まだ自分20台前半だった頃のお話

 会社からの帰り、お局様に片足突っ込みかけた先輩がいきなり声をかけてきた。

「私さん、編み物できるんでしょー?これでマフラー編んでちょうだい。すぐによろしくね、バレンタインまでよ!」と、紙袋を握らせると、「よろしくねー!」と言いながら、先輩は走って行ってしまった。

 ポカーンとなりながら袋の中を見たら安っぽい毛糸が3玉入ってた。そういえば先輩、違う部署に転勤で来た男性といい感じなの~って仕事中話してたなぁ。そう思いながら家路についてたらバレンタインまで後5日だという事に気がついた、もてない自分

 家に帰るとすぐに父親に「これでマフラー編んで~」と、紙袋渡した。私が編み物できるのは父親のおかげ。父は上機嫌で編み始め、あっという間に終わった。「洗わないと…」と言ってきた父には「後で自分でやるからありがとう、お父さん」と、マフラー紙袋に突っ込んだ。

 翌日、先輩の事を考えて、ふたりきり目立たない場所紙袋を返した。「もう出来たの?ありがとね」という先輩に「いちお洗ってくださいね」と、言ったが、先輩はルンルンとどっかに行ってしまった。

 バレンタインデー当日、先輩は昼休み直前に他部署に行き、気になる相手にチョコマフラーを渡したらしい。色んな人の前で、一生懸命作っただの言ってたと、噂話すきなおばちゃん社員社食で嬉々として話してた。

 でも先輩はすぐにふられた。問題はあのマフラーだった。マフラーが凄い異臭を放ってたと、他部署はその話題で持ちきり状態だった。先輩洗わずに渡したのね…そりゃ臭いよ。加齢臭ムンムンで、飲酒喫煙直後の父親がノリノリで編んだんだもん。しかも父親は私が帰ってくると、その日1日の出来事を子供みたいに話すからマフラーにも唾がたくさんかかってただろうし。

 先輩は私にとりなしてもらいたそうだったけど、他部署手作り宣言、挙げ句噂話すきおばちゃん先輩に色々聞かれて、編み物が得意だの言っちゃったしね。私がどうこうできる問題じゃなくなっちゃってた。

 でも諦めきれなかった先輩が文句を言ってきた事があった。私は素直に「日にちもなかったし、すぐって言うから編み物うまい父に頼みました。後渡す時に洗うよう言いましたよね?」って言ったら、黙っちゃって、それからは何も起きなかった。

 先輩のイビリに参ってた自分だったけど、今考えてもとんでもない事しちゃったなーって思ってます。先輩、お元気ですか?

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