これまでの人生を振り返ってみれば齢二十数年間、俺は善良に生きてきたつもりだ。
電車で妊婦さんが居れば進んで席を譲り、歩いていて前の人が物を落とせば必ず拾って声をかける。
お金を拾えばすぐに交番へ届けに行き、職場で困っている同僚がいれば積極的に声をかけてきた。
それでも生活が豊かになったかと言われれば、変わりない。寧ろ悪くなったとさえ言えるだろう。
だから悪人になることにした。どうせ善いことをしたって報われないのだから。
それから俺は変わった。
自販機の近くで拾った百円を使ってジュースを買うし、異性の同期に平気で下ネタを振る。
電車で吐瀉している人には遠くからティッシュを投げるのみで、あとは知らんぷり。
俺は悪人になったのだ。