大切な物を持ち続けることに耐えられない。いつか失くすんじゃないかとビクビクして、ついには失くすくらいならと自分から手を離してしまう。愛した人に失望するくらいなら憎んだほうが楽で、人の中で孤独を感じるよりは一人ぼっちが良い。そうやってずっと生きてきた。こんな生き方をしていたら、きっと何者にもなれないし何も得られないのだと思う。そんなことはわかっている。でも何者にもなりたくないし何も得たくないのだ。
本当は自分だけの綺麗な物を手に入れたいのだと思う。自分自身を賭すだけの何かを見つけたくてしょうがないのだと思う。でもそれは見つからない。当たり前だ。そんなものはないのだから。ないと分かっているから全てを賭したいと思っている。卑怯な考えだ。
結局のところ、卑怯者は何も得られない。幼稚園児だって絵本を見て知っている理屈だ。卑怯者が得をするだとかなんだとか、そんなものは世間を知った気になっているエセ賢者の戯言に過ぎない。本当はそこにはなにもない。本当に何もないんだよ。何も見えないんだ。信じられないなら代わってあげたいくらいだ。