好きな人がいる。
そのひとのことを考えると、心臓のあたりがぽわっと暖かくなる。
その人はもうずっと遠くにいて、自分のことなんか忘れて生きている。ただの知り合い、いや元知り合い、か。
この人は自分なんか眼中にないんだって分かって、身を引いた。もうとっくに大人だから、そういうのは分かる。押して押してなんとかなる相手とそうじゃない相手がいることくらい、よく分かってる。
でも故郷を遠く離れて、一人で頑張ってる毎日、その人のことを思い出すと、少し強くなれる。自分も立派なニンゲンになろうって思う。少しでも昨日よりマトモになろう。
片思いとか、憧れとか、なんでもいいけど、自分が好きではない相手に想い続けられることの迷惑と気味悪さは、よくわかっているから、きっと、この気持ちは隠したままだ。いつかそのうち忘れることを願いながら。
「誕生日おめでとう」、って言うほど親しくもなれないから、そっと心のなかで、「ありがとう」って思う。