はてなキーワード: 訪問介護員とは
学者も知識人も政治家も経営者も、テンプレみたいに「経済成長しないと賃上げできない、再分配できない」とウソばかりつくけれど、要求すれば賃上げも再分配もされるよ。もうそろそろ騙されないで。— 藤田孝典 (@fujitatakanori) July 25, 2019
https://job.j-sen.jp/search/keyword_%E7%89%B9%E5%AE%9A%E9%9D%9E%E5%96%B6%E5%88%A9%E6%B4%BB%E5%8B%95%E6%B3%95%E4%BA%BA%E3%81%BB%E3%81%A3%E3%81%A8%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9.htm サービス提供責任者兼訪問介護員 【賃金】(月額平均)17万円 ~ 生活相談員 【賃金】(月額平均)19.5万円 ~ 23.5万円
23.5万円
で、感じるのだが、都会での独り身は不幸である。
咳はきついし、頭は痛いし、のどはいがらっぽいし、熱で体はだんだるい。よって何も手に付かない。飯どころか小大にすら苦しむ位だ。そして誰も助けてくれない。
ここは……地獄だ……。
ピンポーン
と玄関の呼び鈴がなる。だるいので居留守、と言うわけにもいかない。今日はアマゾンに発注していた本が届く日だったはずだ。まさか一ヶ月前に今日風邪で寝込むなんて想像できていたら注文しなかっただろう。なんていってる場合じゃない。よろろよろと歩いてドアに迫る。ああ、体が動かない。
ピンポーン
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
はいはい。今行きますよ。 ……ったく。
扉を開ける。
目の前には、一人の女性が立っていた。わりとちんちくりんというかチビハムで、背中にバックパックを背負っていた。というか背負われていたと言う方が無難な感じだった。
俺は、
(しまった、勧誘か!)
と思ってすぐに扉を閉めた。
「!?」
なまった体の動きによる、閉めきるまでほんの少しのタイムラグの内に、その女性はちゃっかり、しかし音も無く中に進入していた。というか、動きが一瞬見えなかった気がするが眼がいかれてきてるのか?
「さて、まずは換気ですね。ああ、これを着ててください。すぐに済ませますから」
そう言って、女性は俺にバックから出したやたらモコモコしたちゃんちゃんこを渡すと、こ汚い部屋を横断して窓を開けた。時期はずれの寒風が吹き込んできて、俺は慌ててちゃんちゃんこを着込んだ。
暖かい……。
「えーと、次はおかゆでも作りましょうか。卵入れます?」
「あ、うん」
こちら側にあるキッチンに歩いてきた女性の言葉に、つい勢いでうなずいてしまった。
いや待て俺それどころじゃないだろ!
「ちょっと待て」
そこで大きく咳き込んだ。くそう、俺が風邪なのをいい事にぃ……。
だが、こいつはなにがしたいんだ? いきなり押しかけてきて、名も語らず、それでいて俺の為に食事を作ってくれている。一体なんだ?
「あ、もう少し掛かりますから、寝ててください。換気はもう少し必要ですから、開けたままでお願いします。ちょっと寒いですけど我慢してくださいね?」
「え、あ、はい」
俺は事態が飲み込めずにぼんやりした頭でうなずくと、えっちらおっちら布団に戻り、横になった。ちゃんちゃんこが思いのほか暖かく、窓を開け放っているのにそれほど気にならない。
そのうち、食欲を誘ういいにおいが漂ってきた。
「できましたよー」
「熱いから気をつけてくださいね?」
「は、はい」
促され、フーフー吹いて冷ましてから一口。
鼻が詰まっているからいまいち味はわからないけれど、温かい感覚が口からのどを通っていく。ここずっとゼリー飲料で飯をまかなっていたから、なんだか新鮮な感覚だ。
なんだか嬉しくなってもう一口、もう一口、と食べていく。女性は俺の様子をただ黙ってみているだけだ。なんか買え買え攻勢を仕掛けてくるかと実は思っていたのだが、そういう様子も無い。にこにこしているだけだ。
居心地が……妙だ。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、お粗末さまです」
お盆を渡すと、女性は受け取りキッチンに持っていく。俺は一息つく。さて薬を飲もう、ごそごそと女性は水の入ったコップを持ってきてくれていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
俺は水を軽く含んでから薬を飲み、それから残りの水を飲んで一気に流し込んだ。
飲みきってから気が付いたが、水ではなく程よい温度になった白湯だった。
俺はいよいよ怪しんだ。これは弱っている人間を狙った何か、そう詐欺か何かだ。ここから無理難題を仕掛けてくるに違いない。警戒警戒。
「あの」
そらきた! 俺は警戒心を強めた。何を言われても、鋼の心で突っぱねてやる!
「そろそろ、窓閉めますね」
「ことわ……、……はい」
ガカラガラと窓が閉められる。ストーブをたいていたのですぐに部屋の温度が上がっていく。それ以上の事は起きない。女性はただ静かに座っている。
「えと……」
沈黙に耐えられなくなったのは俺だった。ついに疑問を口にしてみる事にする。
「あなた、なんなんですか?」
「訪問介護員ですよ?」
「だからそれがなんなんですか?」
「風邪などの病気に罹った人の所に出向いて、お世話する、K園が行っている慈善事業の一つです」
「慈善事業、ですか。これ、お金とか取ったりしないんですか?」
「慈善事業ですから」
そう言われると、「はあ」としか言いようが無い。そこで会話は打ち切りになった。俺は黙って横になり、ぼんやりとする。
ひやりとした感触がおでこに当たる。濡れタオルだ。これは俺の持ち物じゃない。誰のだ?
「あ、起こしちゃいましたか?」
そうか、この人のか。と、その瞬間に自分が眠っていた事に気が付いた。
(うわぁ。赤の他人が居る前で寝ちゃったよ……)
俺が赤面すると、女性はなにを勘違いしたのか額のタオルを取り上げ、顔を拭いてくれた。なすがままにされる俺。女性はなおも顔の赤い俺を心底心配したように語り掛けてきた。
「顔、赤いですけど暑いんですか?」
「いや、まあ。でもこういう時は汗かかないと」
「かきすぎて体を冷やすのは良くないですよ。ちょっと拭きましょうか、体」
「え? いやいやいやいいですよそれは自分でします」
「そうですか? ならいいですけども。あまり寒くならない内にした方がいいですよ?」
「は、はい」
……なんでこんなどぎまぎした会話をせにゃならんのだ。と思ったのもつかの間だ。女性は、時計を見て「あらら、もうこんな時間」と呟いて、それまで横に置いていたバックパックを担いで立ち上がった。そして、
「じゃあ私、そろそろ帰りますね」
と言うと、そそくさと玄関に向かい始めた。
「ちょ、ちょっと待って」
俺は勢いで引き止めてしまった。起き上がったせいで濡れタオルがずり落ちる。が、それからの事は考えてない。ただ、待って欲しいと思ってしまったのだ。
女性はおっとり振り向き、俺の次の言葉を待っている。だが言葉はすぐにでてこない。あー、とか、えーと、とかが繰り返し、繰り返し。
(あ、そうだ)
それ以外にもタオルもだ。だけど、この瞬間に出てきたのはちゃんちゃんこの事だけだった。
女性は俺の発言に、女性は何の事やらと一瞬首をかしげたが、すぐに、
「あー、それ、受け取ってください。プレゼントみたいなものです」
と答え、そのまま振り返り玄関を開けて、
「戸締りは、すいませんけれどご自分でお願いします」
とだけ言うと、また音もなく出て行った。
「ま、待って」
俺はよろけながら立ち上がるとよろろよろけて玄関へと向かう。相変わらず体はがたがただから、それだけでも重労働だ。でも歩く。
玄関にたどり着き、扉を開ける。こじんまりしたコーポの廊下を見渡すが、既に女性はどこにもいなかった。代わりに、配送会社の人が今まさに呼び鈴を鳴らそうという姿立っていただけだった。
で、感じるのだが、都会での独り身は不幸ではないかもしれない。
咳はきついし、頭は痛いし、のどはいがらっぽいし、熱で体はだんだるい。よって何も手に付かない。飯どころか小大にすら苦しむ位だ。
だけど、ここには誰だか知らないけれど助けてくれる人がいる。俺みたいなのを助けてくれる人がいる。
そういうのがあるのだ。だから俺は待っている。ちゃんちゃんこを着て、待っている。
ピンポーン