2021-04-02

変異株との"交代"と見かけ上のRtについて

通常の新型コロナウイルスよりも再生産数(増加率)が何割か高い変異株がいる。

変異株が入ると徐々に通常株よりも変異株の割合が増えるので、見かけ上の実効再生産数が変異株のそれに近付く。

変異株の感染速度について、さしあたり通常株5割増という仮説が聞こえてきたので、R(変異株)=R(通常株)*1.5と仮定しよう。

簡単計算例を示す。

{Rt,初期値}が通常株={1.2,100}, 変異株={1.8,10}の場合

再生産数第1世代2345678910111213141516
通常株1.2100120144173208250300360432518622746895107412891547
変異1.810183258104187337607109319673541637411473206513717266910
合計110138176231312437637967152524854163712012368217253846168457
見かけのRt1.31.31.31.41.41.51.51.61.61.71.71.71.81.81.8
週増1.41.41.51.51.61.71.81.92.02.12.12.22.22.22.2

※なお、「週増」は、東洋経済の新型コロナ特集サイト採用しているRt=週増(5/7)より、週増=Rt(7/5)

まり、この場合、見かけのRt変異株のRtと同じ程度になるまで13世代世代間隔5日なら65日)となる。

{Rt,初期値}が通常株={0.8,100}, 変異株={1.2,10}の場合

すなわち、強力な対策を施し、通常株は減るもの変異株については減らすに至らない程度の効果が現れたと仮定する。

再生産数第1世代2345678910111213141516
通常株0.81008064514133262117141197654
変異1.210121417202429354250607286103124149
合計110927868615755565964718193109129153
見かけのRt0.80.80.90.90.91.01.01.11.11.11.11.11.21.21.2
週増0.80.80.80.90.91.01.01.11.11.21.21.21.21.31.3

この場合変異株が通常株よりも多くなるまでは感染者が減少しているように見えるため、対策が不十分であることの発覚が遅れる。

変異株を10から1に減らす労力に比べ、30から1に減らす労力の方が大きいから、対策の遅れは損害の拡大を招きうる。

{Rt,初期値}が通常株={1.2,10}, 変異株={1.8,10}の場合

大阪府吉村知事のいう「感染を抑え過ぎた」場合、とでも言ったところか。

再生産数第1世代2345678910111213141516
通常株1.210121417202429354250607286103124149
変異1.810183258104187337607109319673541637411473206513717266910
合計20304675124211366642113520173601644611559207543729667059
見かけのRt1.51.51.61.71.71.71.81.81.81.81.81.81.81.81.8
週増1.81.82.02.02.12.22.22.22.22.32.32.32.32.32.3

まり、見かけのRt変異株のRtと同じ程度になるまで8世代世代間隔5日なら40日)となる。

このように、初期値で通常株が少なく変異株の比率が当初から高い場合変異株と通常株の比率が変わる速度が早まり、見かけのRtが早く上がる。

ただし、拡散速度の差によるものであるから、あたか一定数量内での奪い合いを連想する「変異株が既存株にとって変わる速度」(吉村府知事)という表現不適切であろう。もしかすると、病原菌抑制していた善玉菌を殺菌・抑制することで悪玉菌が増える「菌交代現象」を連想したのかもしれないが、新型コロナウイルスについて通常株が変異株の増殖を抑えるわけではないので、菌交代とは異なる。

通常株が変異株の増殖を抑えているわけではないから、通常株の初期値によってその後の変異株の数が変わるわけではないので、「感染を抑え過ぎた」(吉村府知事)などということはあり得ない。なんといっても、見かけのRtの差にもかかわらず、合計の感染者数は初期値(通常株)=100の場合よりも初期値(通常株)=10場合の方が少ないのだ。

また、見かけのRtの増加は変異株のRtが上限となりその後は増えないから、変異株のRtを早期に把握して対処できる方が、いつまでもRtが上がり続けて見えるよりも予測を立てやすい。

したがって、通常株の感染を抑えていた方が変異株を加味した対処は容易になるだろう。通常株を抑えたことは、何ら裏目に出るものではない。

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