2021-03-14

 過労で半身不随になった夫婦共通の知り合いのお見舞いに、メッセージカードを書かなければならなかった。仕事中の夫と外で落ちあいスマホのインカメラ笑顔写真を撮る。スマホからチェキを出すことが出来る小さいプリンターを私は持参していて、それで撮ったばかりの写真を出力し、ポスカメッセージを添える。

 『リハビリがんばってください。みんなまっています。またお会いできる日を楽しみにしています。(夫婦連名)。』

 ねえ、こんなカード、もらってもうれしいと思う? 過労で自分を殺した会社からカードなんか?

 私は夫に聞く。さあ。どうだろう。でもこういうのは、もらう側の問題じゃなくて、出したい人がいるんだよ。夫は笑う。

 知ってる? ◎◎さんがさ、カード貼るために買ってきた色紙、ハート型なんだよ。

 私も笑ってしまう。

 なにそれ、ハート型の色紙ベッドに飾るの?

 夫は私に言う。

 それよりなんであんたさ、チェキなんか持ってるの。

 それは、ええと――私が、短歌が好きで。

 知ってるよ、それは。

 短歌をね、いい感じの写真の上に書いたら気持ちいかなって思ったの。でもチェキは小さすぎて、57577を書けなかったんだ。

 そこで、耐えきれないというふうに夫が吹き出した。

 ごめんなに? ねえ、なに? いい感じの写真? なに? もう一回言って。

 いやだよ。恥ずかしすぎて言いたくないと私は答える。石碑に彫りたいくらいの迷言だったよと夫は言う。

 いい感じの短歌を……美しい写真の上に……。

 いい感じの短歌を、美しい写真の上に書くんだよ。と私は諦めて言う。

 いい感じの短歌を、美しい写真に書くんだ。

 そういうことが必要ときはあるんだよ。過労になった相手ハート型の色紙を贈りたがる気持ちと、本質的には同じことだね。

 

 私はそのファミレスで撮ったチェキの上にひとつ短歌を書く。

 『ぼくたちはこのくらい夜を生き延びて回るすし屋で再会をする』

 ここはファミレスなのに、寿司なんてぜんぜんおかしいよと夫が笑う。

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