10年前、私が子供の頃に死んだ父のことについて、私はあまり泣かなかった。
嫌いなわけじゃなくて、むしろ大好きで、いつも父の部屋に遊びに行っていたぐらい。
死んでしまったと言われたときも、葬式のときも、焼けた骨を見ても、頭では死んでしまったとわかっていたし、病気がちだったから覚悟はしていたし、自覚出来なかったのは、ただその日を生きるのに精いっぱいだったからかもしれない。
父がいなくなってから母への負担は増え、働きながら、片親で、成人前の子供たちを面倒みる余裕はなくなって。
でもいつかそんな暗い毎日も過ぎて行って、兄妹も皆大人になって社会に出て。
父の事を忘れていたわけじゃないけれど、思い出す事も減ってきて。
私は実家暮らしなのだけど、元父の部屋を譲ってもらえることになった。
一応、譲ってもらう前は母が寝室にしていたのだけど、あまり使わなくなったからと言って。
仕事の日記で、私のまったく知らない父の様子が書かれているとともに、病気のことも少し書いてあって。
正直書いてある内容の半分もよくわからなかったんだけど、これを書いた人はもういないのだという実感がふつふつと湧いてきて、一人で、ボロボロと泣いてしまった。
もう10年も前のこと。忘れていることばかりだけど、覚えていることもあって。
なんだか急にとてもつらい。その人は死んでしまっても、いつか記憶から少しずつ消えてしまっても、やっぱり生きていた跡が確かにあるということが、とてもつらい。