2016-12-09

みかん物語

むかしむかし、ある海辺の小さな村に、みかんの木を育てているおじいさんが居ました。

その頃はまだ、みかんの木を育てているのは、そのおじいさんだけでしたが、

そのみかんの木から採れるみかんは、とてもおいしく、村で評判でした。

 

ある秋の日、おじいさんは、実ったみかんを、遠くの街の市場に持って行きました。

おじいさんのみかんはたちまち評判になり、とても高い値段で取引されるようになりました。

喜んだお爺さんは、それからせっせとみかん市場に持っていくようになりました。

ひと冬が終わって、春が来るころには、おじいさんは、家を建て替えられるほどのお金を儲けて、

たいへんなお金持ちになっていました。

 

村の人々は皆、おじいさんを羨みました。

「いいなぁ、僕もみかんを育てて街で売って、お金持ちになりたいなぁ」

そういう人たちに、おじいさんは快く協力し、みかんの木の育て方を教えました。

村では皆がみかんの木を植え、みかんを育て始めました。

やがて村じゅうの畑や山が、どこもかしこみかんの木だらけになりました。

「みんなお金持ちになれるかなぁ、ワクワク」

 

でも、お金持ちになるのは、簡単ではありませんでした。

みかんの木は、植えてから、実を付け始めるまでに、なんと20年間も世話して育てなければならないのです。

みかんの木を植えた後、20もの間、周りの草を抜いたり、水や肥料をやったり、

害虫駆除したりしなくてはなりません。でも、その間、みかんは実らないので、

みかんを売って収入を得る事もできないのです。

その間、おじいさんは、毎年みかんを売って、ますます儲ける事ができましたが、

それを見て真似してみかんを植えた人は、前よりも貧しくなってしまいました。

「でも、みかんが実り始めるまでの辛抱だ。みかんが実り始めたら、きっと金持ちになれるぞ。がんばろう!」

 

やがて20年が経ちました。おじいさんの真似をしてみかんを育て始めた人々のみかん畑にも、

やっとみかんが実り始めました。

「やった、みかんが実ったぞ。どれどれ、1つ食べてみよう」

 

そうすると、困った事がわかりました。最初のおじいさんと同じように美味しいみかんができる畑もありましたが、

半分ほどの畑では、食べられないほど酸っぱいみかんばかりだったのです。

 

最初は、それぞれの農家が、それぞれ箱に詰めて、遠くの街の市場に持って行きました。

おいしいみかんは高く売れますが、酸っぱいみかんは誰も買ってくれません。

20年もかけて、頑張って我慢してみかんの木を育ててきたのに、すっぱいみかんしか実らなかった農家は散々です。

 

「これじゃぁあんまりだ。20年も頑張って来たのに、結果がこれじゃぁ、可哀そう過ぎる」

そういう訳で、村のみんなで集まって、どうすれば良いか相談しました。

「おいしいみかんが出来たのも、酸っぱいみかんになってしまったのも、運のようなものだ。一緒に同じように頑張ってきた事に違いは無い。

から、両方のみかん区別せず、混ぜて売りに行こう」

そういう話になりました。

 

さっそく、次の日から、おいしいみかんと酸っぱいみかんを混ぜて、市場に持って行きました。

市場ではどんな値段で売れるでしょう? 

おいしいみかんと同じ値段で売れるでしょうか?

おいしいみかんと、酸っぱいみかん中間の値段になるでしょうか?

それとも、ぜんぶ酸っぱいみかん扱いされてしまうでしょうか?

 

残念ながら、結果は最悪でした。味見で酸っぱいみかんが混ざっている事に気が付いた客は、

すっぱいみかんと同じ値段でしか買ってくれなくなってしまったのです。

 

村ではまた話し合いました。

「味見をする客は、箱の上の方のみかんしか味見しない。だから、箱の下の方に酸っぱいみかんを入れて、上の方においしいみかんを入れれば、

おいしいみかんと同じ値段で売れるんじゃないか?」

 

早速、試してみました。

最初の日は、とてもうまくいきました。味見をしたみかんがどれもおいしかったので、客はおいしいみかんの高い値段で全部買ってくれました。

でも、次の日には散々でした。下の方には酸っぱいみかんが入っている事に気が付いた客からクレーム殺到しました。

その悪評は、またたくまに広まり、その村は信用を失ってしまいました。

それ以降、その村のみかんをまともな値段で買ってくれる人は誰も居なくなってしまいました。

 

村の悪評のせいで、どうやっても高い値段で売れなくなってしまったので、村の人々はだんだんと諦めて、みかんの木を育てる事をやめてしまいました。

いったい、何がいけなかったのでしょう?どうすればよかったのでしょう?

 

そして、最後までみかんを育てていたのは、結局、あの、おじいさんだけでしたとさ。

 

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