近く両家顔合わせがあるので、その時着るスーツを買いたいと婚約者が言ったからだ。
お目当ての店を見つけ店内に入る、目ざとく私達を見つけた女性店員がこちらへ近づいてきた瞬間、私は言いようのない気持ち悪さを感じた。
30代前半の小柄で可愛らしい女性店員。接客も手慣れた風で色々と明るく話しかけてくる。
その店員とは当然のことながら面識は無い、無いのだが、とにかく全身に鳥肌が立った。堪えていても吐き気が襲ってきて私は耐え切れず店内に出た。
ベンチに座りじっと耐えると今度は涙が出てくる。意味も無く酷く辛い気持ちに押しつぶされそうになる。
自分でも何がなんだかさっぱり分からないが、とにかく私はパニックに近い状態になってしまっていた。
後日、そんな私の姿を不思議に思った婚約者が改めてどうしてそうなってしまったのかと聞いてきたが、当然の事ながら何一つ説明できないままだった。
「あの店員さん、前の彼女にとても似ていた」
私は婚約者の前の彼女に会ったことは無い。ほとんどその人の知識は無い。
ただ一つ知っている事は、その彼女はもうこの世に存在しないと言うことだけ。
詳細は省くが、元々精神的な病を患っていた前彼女は婚約者と別れ話になり衝動的に飛び降りて死んだ。
そして知ったのは、あの女性店員と接触した日、その彼女の命日だったと言うことだ。
まさかとは思いますが(以下略