僕がインターネットを利用し始めたのは16歳ごろだったと思う。
その少年は芸大をめざし、日々ファインダーと向き合う生活していた。
オレンジ色の背景のブログには屈託のない彼の文章と、彼だけにしか撮れない写真がいっぱいあった。
僕は興奮した。ドキドキした。わくわくした。更新されるのが楽しみで仕方なかった。
だって、人の生活をのぞき見するってすごくワクワクするでしょ?
それが自分と同じような年齢で、なにかに挑戦しようとしていて、輝いていたら、
すごくワクワクしない?それがすごくリアルを帯びていたらワクワクするよね?
とにかく、ディスプレイ越しに見えた彼の世界は僕を虜にしたんだ。
もちろん一眼は買えない。バイトをして程度の良い一眼ライクなデジカメを購入した。
今までの僕なら、怖くて行くこともかなわなかったろう。
だけども、カメラのファインダーを覗いている間は僕は無敵になれた。
暗闇の中にファインダーで切り取られた世界だけがぽっかりと覗いている。
そんな世界を僕は歩き続けた。
きっと焦っていたんだ。ずっと追い付けないことに焦ってたね。
彼の写真はさ、奇跡的な一枚でもないし、すんごく考えられた構図でもない
人種もんだいとか飢えとか政治問題とか、そんなんじゃないんだ。
どこにでもあって、誰でも撮れそうな写真なんだよ。
ただ、その写真1枚にはとんでもないほどのエネルギをもってる。
その1枚彼のリアルがあった。
彼のブログはあっという間に有名になった。
今では写真仲間と上京してルームシェアして日々を送ってるらしい。
もはや、彼のブログは僕にとって憧れではなく、嫉妬の塊になりつつある。
憧れだったものが嫉妬に変わるものほど惨めなものはない。
今日も彼は、ブログの中で仲間たちとの打ち上げの報告をしている。
僕はPC前にぶちまけた飲みかけのジュースを泣きながら拭いている。
どうしてこうなったんだ。
あっという間に成人だ。ついこの間成人式に出席してきた。
みんな変わってた。みんなからお前は変わってないなと言われた。
おいていくな。助けてくれ。手を貸してくれ。
僕と君の違いはなんだ。教えてくれ。
墨田区の小さくてボロアパートの一室でやっと買った一眼を握って今日も震えている。
手に力が入りすぎて汗でジットリ濡れてるんだ。
こんなにシャッターが重かった?
すぐ横で、スカイツリーがどんどん成長している。
ファインダーを覗く僕はもう無敵じゃない。たすけてくれ
とりあえず連絡をとってみろよ。んで、話でもしてみたら?
誰もお前についていけないよ。