2010-11-20

法学部1年生向け『暴力装置』の説明

暴力装置についていまいちよく分からない人のために。

まずは次のような状況を考えて欲しい。

問題:

ある日、あなたは駅前に自転車を停めて出かけたところ、誰かに盗まれてしまった。

次の日、あなたは近所の庭先に盗まれた自転車が停まっているのを見つけた。

これに乗って帰ることは違法だろうか。


答え:

違法


解説:

直感で考えれば、「自分の物を取り返して何が悪い」と思うかもしれない。

しかし、これこそが『暴力装置』の基本であり、近代法の基礎である。


暴力』といえば、誰かを殴ったり、銃で撃ったり、もうすこし大人しいところだと、相手を怒鳴りつけたり、そういう場面を思い浮かべる。

しかし、法学での『暴力』はもっと範囲が広い言葉で、「相手の意に沿わないことを強制させる力」くらいの意味だ。

たとえば駐車違反罰金も、国民財産権を、国が侵害するのだから、『国家暴力』ということになる。


さて、盗難自転車の話に戻ろう。

あなたが盗まれた自転車を見つけて、そのまま乗って帰ることは違法である。

法律に詳しい人なら、窃盗罪だとか占有離脱物横領だとか思いつくかもしれないが、

ここではそれがどんな罪になるかは考えないことにしよう。

とにかく、罪になるということさえ覚えておいてくれればよい。

なぜ日本民法がそれを罪としているのか、基本となる考え方を説明してみよう。


かつての日本では、盗まれた物を奪い返すのは罪ではなかった。

公正な裁判など期待できない時代である。自らの権利自分で護らねばならなかった。

これは日本だけでなく、世界中がそうであった。

「神は正しき者に力を与えるから、決闘すれば正しき者が勝つに違いない」など、無茶苦茶理論がまかり通った時代もあった。

ういった考え方を『自力救済』と呼ぶ。


自力救済は裁判よりずっと迅速だ。

しかしこれでは「力こそが正義」となってしまう。弱者は抑圧され、ヤクザがはびこり、200X年、世はまさに世紀末となってしまう。

そこで近代法では、暴力を振るってよい者』を決め、それ以外の者は暴力を使えないことにした。


暴力を振るってよい者』を誰にするか。

もともと強い者たちに割り当てるわけにはいかない。そんなことをしたら、より弱者の抑圧が強まるだけである。

では、弱者に割り当てればどうか。弱者と強者が入れ替わるだけで、抑圧が続くことは変わりない。

選ばれたのは、「国民全員」、つまり国家である。


国民の総意である国家のみが『暴力』を振るうことができる。

つまり、あなた駐車違反罰金を支払わなければいけないのは、国民であるあなたが「駐車違反をしたものは罰金を支払わなければいけない」というルールに同意したからだ。

もちろん実際にその『暴力』は、国家に雇われた警官軍人が振るうのだが、暴力』をコントロールしているのは国民であるあなた自身である。

駐車違反罰金が高すぎると思えば、選挙でそうい意見を持つ政治家当選させるか、あなた立候補して、法律を変えればよい。


そろそろ締めくくろう。

盗まれた自転車を見つけたらどうすればよいか110番通報して、警察に来てもらうのが正しい。

そうすれば警察あなたと泥棒の言い分を聞いて、正しい持ち主の元に自転車を返すだろう。

警察暴力装置であるからこそ、泥棒から自転車を取り戻せるのである。


暴力装置という言葉には、どうしても不穏な響きがつきまとう。

しかし実際には、国家が『暴力』を独占しているからこそ、ヤクザ理不尽暴力におびえることなく、私たちは安心して暮らしてゆけるのだ。



もっと考えてみたい人に:

自衛隊を指揮しているのは内閣総理大臣です。これをシビリアンコントロールと呼びます

シビリアンコントロールの考え方を説明してみよう。

(ヒント:自衛隊は暴力装置です。内閣総理大臣は、国民の代表である国会議員から選ばれます

  • 仇討ち、ばんざいばんざい

  • 盗まれた自転車を見つけたらどうすればよいか。110番通報して、警察に来てもらうのが正しい。 そうすれば警察はあなたと泥棒の言い分を聞いて、正しい持ち主の元に自転車を返すだ...

    • 素朴な質問なんだけど 2人の言い分を聞いて〜をするっていうのは、裁判所の機能のように思えるんだけど 警察ってそういうことできるの? 本当に泥棒かどうかは、裁判をして有罪...

      • 違法かどうかを判断するのはやっぱり、裁判所なので、違法の可能性がある であって、違法ではないよね。 また、盗まれた段階で 警察に届けでていないので  勝手に持ち帰りました...

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