電車に警備員が乗ってきた。閉じているドアの近くで立哨をしている。
途端にさっきまで通路に足を投げ出して本を読んでいたジジイや、無駄に大きな音で咳払いをしていたジジイ共がおとなしくなった。
アドラーによると、人間の行為は全て所望の結果を求めてのことだという。ウェイターに誤って水をかけられて激昂する人間は、水をかけられたから怒っているのではなく、ウェイターを怒鳴りつけたかったから怒っているのだという。
このアドラーの説を当てはめると、上に挙げたジジイ共は、他人に配慮する能力がなかったり、無意識的にあのような行動をしていた訳ではない事になる。つまり、意識的にか無意識的に周りの人間を威圧したいからあのような行動をしていたのである。その証拠に警備員が乗車した途端に大人しくなった。
世の中というのは思ったよりも悪意に満ちているのだ。