おれは新幹線に乗り、家へ帰る途中だ。
通路を挟んで隣の席のモンキー・ボーイ達は、乗り込んでからずっとしゃべりっぱなしだったが、話すことが無くなったのか、やっと静かになった。
やれやれ、とおれはトイレに立つ。あと1時間、席に座り続けるには、途中でトイレに行って、ついでに通路で少し足腰を伸ばす。これが一番だ。
男用のトイレには鍵が無く、ガラス越しに通路から背中が見える。少し不安なポジション。だが臆せず、おしっこの放物線をイメージする。アクション。初め、勢いがない日本のラインを描きながら、徐々に回転し、ついに一本の美しい弧を描くことに成功する。
トイレのライトは真上から、おしっこを照らす。そして気づく。おしっこの影。おしっこが便器に当たる直後、弾け飛び水滴が周りに散る。おしっこと水滴の影。まるで線香花火だ。形を変えながら弾け続ける、儚い夏の夢。美しい。
新幹線の外は激しい雨だ。窓の水滴は、真横に流されて尾を引く。右から左へ、時間の流れを表す直線、タイムライン。この夏は一度きり、過ぎ去った時間は戻らない。