都で鳴らした名もこの辺境では意味をもたない。名も果つる僻地、果名(はてな)の国は、大きく安穏土(あのんど)と伏魔区(ふくまく)に分けられる。
安穏土はその名の通り平和な土地だ。田園を愛して勤勉に働き、土地を拓いて田を増やす…その生き方から増田(ますだ)と呼ばれる民が暮らす、のどかな一帯である。
いっぽうの伏魔区はといえば、これは同じ国とは思えぬほどに荒廃した魔境である。南蛮渡来の「星薬(スタア)」と呼ばれる麻薬が蔓延り、これを奪い合って人々が常に争っている。ここに住まう民は、病に伏せり魔にとらわれ禍をまきちらす、伏魔禍(ぶくまか)と呼ばれ恐れられる。昔からここまで酷かったわけではない。かつて伏魔区の中心には美しい都があり、そこでは人々が肩を寄せ合って笑い、その日の喜びや発見を語り合う平和な光景も見られたのだ。しかし人心が荒廃すると狼藉者たちはその都こそを第一に狙った。いまでは、廃区(はいく)と呼ばれる草の一本すら生えない荒地が残されているだけである。
安穏土が平和だと? 煩帝(パンテイ)が支配する暈地(うんち)じゃないか。
失われた土地破天田と新しき土地破天風炉の住民も忘れないで