2019-08-25

パンティー春

ある春の日暮です。

唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやりパンティーを被つてゐる、一人の若者がありました。

若者は名はパンティー春といつて、元は金持の息子でしたが、今はパンティーを被り尽くして、体育館に並べられるほど、憐れな身分になってゐるのです。

しろその頃洛陽といへば、天下に並ぶもののない、パンティーを極めた都ですから、往来にはまだしつきりなく、パンティーを被つた人やパンティー車が通つてゐました。門一ぱいに当つてゐる、油のやうな夕日の光の中に、老人の被つた紗のパンティーや、土耳古の女の金のスキャンティーや、白馬に飾つた色糸Tバックが、絶えず流れて行く容子は、まるで画のやうな美しさです。

しかパンティー春は相変らず、門の壁に身を凭たせて、ぼんやりパンティーを被つてゐました。空には、もう細い月が、うらうらと靡いた霞の中に、まるでパンティーのクロッチかと思ふ程、かすかに白く浮んでゐるのです。

「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行つても、泊めてくれる所はなささうだし――こんな思ひをして生きてゐる位なら、一そパンティーを被るのをやめて食べてしまつた方がましかも知れない。」

パンティー春はひとりさつきから、こんな取りとめもないことを思ひめぐらしてゐたのです。

するとどこからやつて来たか、突然彼の前へ足を止めた、真紅ブラジリアンを被つた老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落すと、ぢつとパンティー春の顔を見ながら、

「お前は何を被つてゐるのだ。」と、横柄に言葉をかけました。

「私ですか。パンティーです。」

老人の尋ね方が急でしたから、パンティー春はさすがに眼を伏せて、思はず正直な答をしました。

「さうか。それは楽しさうだな。」

老人はしばらく何事か考へながら真紅ブラジリアンを頭に食い込ませてゐるやうでしたが、やがて、往来にさしてゐる夕日の光を指さしながら、

「ではおれが好いことを一つ教へてやらう。今この夕日の中に立つて、お前の影が地に映つたら、その頭に当る所を夜中に掘つて見るが好い。きつと車に一ぱいのパンティーが埋まつてゐる筈だから。」

「ほんたうですか。」

パンティー春は驚いて、伏せてゐた眼を挙げました。所が更に不思議なことには、あの老人はどこへ行つたか、もうあたりにはそれらしい、影も形も見当りません。その代り空の月の色は前よりもなお白くなつて、休みない往来の人通りの上には、もう気の早いパンティーが二三着ひらひら舞つてゐました。

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