この季節になると、自殺した人のことを思い出す。
その人は、同じマンションに住んでいたというだけで名前も知らない。
自殺者が出ていることを知っている人は、ほとんどいないのではないかと思う。
自分が知っているのも単なる偶然で、この季節、自分の部屋に戻ろうとして
エレベータを待っていたら、ちょうど降りてきたエレベータに乗っていたのが
数人の警察官と、黒いビニールが厳重に巻き付けられ立て掛けられた担架だった。
警察官の一人が持っていた段ボールには、何かごちゃごちゃと入っていて
その中に1枚A4ぐらいの白い紙に投げやりなゴシック体で
警察の人は、もうちょっとプライバシーに気を付けたほうが良い。
当時は、まだ硫化水素が流行って間もなかったので、そんな紙を遺したのだろうけど
自分が死のうというときに、他人に気を遣っている場合じゃないだろうと
思い出すたびに胸が苦しくなる。