2018-03-02

増田君。ちょっと」と、課長デスクからおれを手招きした。「ちょっと、来てくれたまえ」

 あの、ちょっと、というやつが、くせものなのである。おれは溜息をついた。どうせまた、新しい仕事を命じられるに決っていたからだ。しかもおれは、これでもう、32時間も、ぶっ通しに仕事をしているのである。おれはしかたなく、おそるおそる課長の前へ行き、頭を下げた。「はい。何でしょう、課長

 課長は、じろりと横眼でおれの様子を観察してから、こともなげな口調でいった。「新しい仕事だ。君がやってくれ。いっとくが、こいつはすごく急を要するのでな。今やってる仕事が片づき次第、すぐにかかってほしいんだ」

いい終るなり彼は、書類一式をぽんとデスクの上に抛り出した。うむをいわさぬ調子だった。

 しかし、これ以上仕事を続けたのでは、からだが参ってしまう。おれは、口ごもりながらいった。「はあ、あの、し、しかし」

「なんだね」課長はまた、じろりと横眼でおれを睨みつけた。「いいたまえ。しかし、なんだね」

 くそっ。なんだってまた、この課長に、にくまれしまったんだろう。ほかの社員が、多少仕事を怠けても見て見ぬふりをするこの課長が、なんだってまた、このおれだけを、しつっこく、いじめやがるんだ。

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