若い頃は箱師だった。箱師にもルールがあって、どこそこの駅は誰それの縄だから入っちゃいけない、とか先輩から教えられていた。大きい駅は大抵年寄り連中が使ってて、勝手に商売したのがばれるとオニイサンに何倍もぶんどられると言われていた。おれはもっぱら山手線で回りながらやってたが、先輩は渋谷駅あたりを占有していたので、先輩がおれに来て欲しくなくて勝手に言ってるだけだと内心信じてはいなかった。
ある時、年末にどうしても金が足りなくなったので、こっそり渋谷駅で働かせてもらうことにした。先輩はくにに帰っているはずだった。
年末の渋谷駅はごった返していて、まあ天国だった。早々に切り上げればよかったのだが、欲がでて大交差点に行ってみようという気になってしまった。交番の真ん前だし、渋谷駅だしで、功名心みたいなものだったと思う。