目を瞑り、温度を冷たくない程度に下げてシャワーに打たれる。背中に流れる水が胸椎の丸みを伝って腰の凹みを飛び越え、真後ろの風呂のタイルにまとまって落ち、びちゃびちゃとうるさい。均一に水が流れ落ちる音の中に異質なものが混じっているようで少し気になったが、姿勢を変えたくなくて、そのまま水音に聴き入る。
そわそわと落ち着かないような気がしている。今日一日、順調に過ごすことができたと思っている。何が良くないのかと思いを巡らせるも、心当たるものは特にない。多少なり「今日はよくやった」と満足してもいいはずなのに、実際はそうはなっていない。
最近珍しく本を読んでいる。何がきっかけだったかは分からない。本は読まない人間だ。全く読まないというわけでもなかったが、読むときは大体、突然何かに強いられるように他のやるべきことの時間を潰して読んでいた。現実逃避していただけだと思っている。習慣でも趣味でもない。
これが原因だろうかと思い、目を開け、顔をあげると、シャワーヘッドがこちらを見ていた。「俺を見ていたのか」と思ってもう一度よく見ると、シャワーヘッドはただぬるま湯を吐き出しているだけだった。