車内は、それなりに込んでるけど、世の中そんなに捨てたもんじゃなかった。
そのお母さんのまわりには、空間を作るために耐えるサラリーマン、
お母さんの居場所を守るTシャツのおっさん、母を気にするおばちゃん、赤ちゃんに笑顔を送る高校生。
色んな人が代わり代わりその役を変えてお母さんを守ってる。
お母さんはそのたびに、凛とした表情に笑顔をのせて、その好意に応える。
世の中の優しさより母の強さに驚いた。人々の好意を、謙遜も卑下もなくただ受け入れる。
僕がその立場にいたら、どうだろう、彼らの優しさに簡単に甘えてしまうではないか。
情をおもっ苦しく感じ、卑下て笑うか、感覚を麻痺させ表情をこわばらせたのではないか。
接続駅で大量に人が降りると、お母さんはやっと椅子にかけることが出来た。
背中のリュックが邪魔をして、椅子に腰を軽く乗せただけだった。
それでも、緊張の糸を切るのは十分だったのか、お母さんはうっつらとうっつらと頭を下げる。