白いワイシャツに灰色のスラックス姿の男が疲れた表情で歩いていた
ようやく日も沈みきり、週末の夜が始まる頃合いだろうか
リクルートスーツを着た、就職活動中とおぼしき若い女が、男の前に立ちはだかり、両手で指鉄砲のジェスチャーを構えた
「手をあげろー!」
満面の笑みの女と、疲れた表情のまま女の目の前で立ち止まる男
「もう、ほら、手、上げて!」
女は男の両腕を掴み、無理やり持ち上げる
はあ、と男はため息をついて、昔の映画に登場するゾンビのように両手をだらしなく上げる
女はすかさず両手を男の脇の下へ潜り込ませ、このままプロレスの技でもかけるかのような勢いで男に抱きついた
男はさらに大きなため息をつき、上げていた手を力なく落とした
「ぎゅってして!」
女は男のワイシャツに顔を押し付けたまま、くぐもった声を発した
「あぁ?」
男は半ば不快感を含んだ声を漏らしたが、女が抱きつく力を緩める気配がないからか、諦めて女の背中に両手を置き、宙を仰いだ
一分ほどたっただろうか
「まだ?」
「…もうちょい」
さらに数十秒が過ぎて
「バス来るぞ」
「うん」
抱きついた時とはうってかわって、女は静かに、伏し目がちに男から離れた
「気、済んだか」
「うん。済んだ」
それを見ていた僕は帰宅してめっちゃシコった