或る人の話をしようと思う。
今となっては、最も愛すべき存在になった人のこと。
でも、その前に、少しだけ恨みつらみも書こう。
彼のことである。
正直に言おう。僕は彼に嫉妬していた。
会ったこともないのに。彼女からの伝聞でしか聞いたことがないのに。
僕のほうがずっと大人で、彼女に優しいんだと思っていた。
実際100人中100人がそう言ってくれるであろう自信がある。
彼女は彼のせいで悩みを抱えていた。
仕方ないのだというけれど、同じ悩みを過去に抱えていた僕には、到底許しがたいことであった。
なぜかって? 彼女は僕と同じだったから。何が、ということはない。全てにおいて。
僕と彼女は性別は違えど、血肉を分けた兄妹のような不思議な関係だった。
だからこそ、彼女が悩んでいる気持ちが誰よりもよく分かったし、過去の自分と同じ過ちを犯していた彼のことが許せなかった。
本音を言えば、自分のほうが優れていても、あばたもえくぼ、彼女が彼のことが大好きなのは仕方がないと思っていた。
僕も、それが成就するように精一杯の助言をして、彼女の心のケアもした。
少し悔しいけれど、僕は彼女が幸せになってくれれば、それでよかった。その力になれることが嬉しかった。
でも、僕が彼女にどんな言葉を伝えても、それは彼には伝わらない。
僕自身の存在さえ彼に知られてしまったのに。それでも変わらない。
もどかしかった。出来ることなら彼のもとへ行って、殴り飛ばしてやりたかった。
僕だって彼女の笑顔が大好きなのだ。それを守りたいと思っているのだ。