今でも私と母は二人でよく買い物に行くし、旅行にも行く。
私は母からどんな困難も乗り越えられるのだという勇気をもらった。負けん気の強い今の私の性格は母譲りだ。
母は私をほどんど一人で育て上げた。
私は小さいころ、父親は家にいないのが当たり前だと思っていた。
現に、一緒によく遊んでいたMちゃんの家もお父さんは遠くで働いていて、私の父や、Mちゃんのお父さんのどちらかでも、たまに家に帰ってくることがあれば、Mちゃんも私も、自分のことのようにうれしくてはしゃいでいた。
Mちゃんの家と私の家が違うってわかったのはもうちょっと大きくなってから。
父と母は籍を入れていなかった。母は父の妾だった。
父の正妻には子供が生まれなかったのだ。父の家は厳しく、跡取りができないことを良しとしなかった祖母が、私の母に子供を作らせた。そんな祖母も今はいない人で、私は会ったことがない。結局、生まれたのは女の私だったから、祖母の抵抗もむなしく、父の家は途絶えることになっている。
私は一度彼女に会ったことがある。静かに揺れる長い髪、押したら折れてしまいそうなか細い身体、優しい顔で微笑む女性。私は彼女から、庭で咲いていたという小さな花をもらった。母と同じ歳くらいであるのに、まるで少女のような人だった。
母は一度、父について、こんなことを言っていた。
「あの人は、男としての欲望をかなえたんだわ」
「あの人は、男としての欲望をかなえたんだわ」 父は、母ではなく、あの女性を選んだ。母親になれなかった女を。 あなたの母親も、女として、そんな男を選んでしまったという...
君が男だったら違う結果だったろうね。