大人しそうな二十歳くらいの細身の黒髪の女の子が、ときおり幾分赤く腫れ上がった目頭に上着の裾を当てがいながら、シートに体を預けて静かにすすり泣いていた。音をたてるのは鼻をすするときくらいだった。もう一方の手には携帯電話が握りしめられていた。
他人のいる場所それも電車の中で涙を流すなんて余程のことでもないかぎり自制できそうなものなのに、彼女は周囲に目もくれずに泣いていた。だが不思議なことにその姿から悲哀に満ちた印象は殆んど見受けられなかった。仮に瞳から涙が流れていることを認めなければ、おそらく表情も含めて彼女の所作は、ごく普通の乗客の一人にしか見えなかったことだろう。
僕はそんな哀れな彼女にひとこと声をかけようかなどとしばらく思案していたが、結局はただ黙って見守ることにした。だいいち朝の時間帯で周りに人が多かったし、昨今の社会情勢を鑑みるとどうにも気が引けたし、そもそも彼女にとって僕は何者でもないので、何をしたところで迷惑になるはずだったからだ。
彼女の左隣の座席に茶髪の女の子が坐っていた。その女の子は、心配というよりはむしろ世にも珍しい生きものを眺めるみたいに、時折興味と不安の入り交じった視線でちらちらと隣の様子を伺っていたが、やがて自身の携帯電話に視線を移した。
次の駅に着いたとき、女の子は不意に席を立って電車を降りると、人々でごった返す改札の中に消えて行った。
そういうわけで、彼女をあそこまで悲しませた原因はわからずじまいとなったが、彼女自身涙をとめることのできないそれなりの理由があったことは確かだったし、正直なところ僕はそれが気になり胸の奥でつっかえている。今の彼女は悲しみにくれているのだろうか、僕にそれを知る術はないけれど、でも僕はただひたすらにいま彼女が幸せであることを願おうと思う。
彼女をあそこまで悲しませた原因はわからずじまいとなったが なんで?普通になんで泣いてるの?って聞けばいいじゃん。 俺泣いて歩いてる女に声掛けてその日にHした事あるけどw
涙は悲しくて出るものとは限らない。 怒り泣き・悔し泣きなんてのもあるよ。
女は結構強いから泣いた次の瞬間にご飯バクバク美味しそうに 食べてたりするから、意外とだいじょうぶだよ。