オレは1年ほど前、数分先の自分自身を見ることができるようになった。
平凡なサラリーマンのオレの、なんの未来もない人生が、これから劇的に変わるんだと思った。
しばらくして、この力がほとんど意味のないものだということに気がついた。
オレは落胆した。
この力は一体なんのためにあるのだと、途方に暮れた。
どうしてもこの力を有効活用したかったオレは必死に考え、ひとつの使い道を思いついた。
試しに近くのくじ売り場へ行った。
くじを買ったら、1000円だけ当たった。
正解だった。スピードくじならぎりぎり間に合うようだ。
オレはグーを出したら負け、パーを出したら勝ちというルールを決めた。
その日から、くじ売り場の前を歩いて自分の姿を確認するのが日課になった。
スピードくじなんて滅多に当たらない。
ほとんどのオレはグーを出していた。
1ヶ月で1万円程度の儲け、たかだか小遣いが少し増える程度だった。
それでも、オレは満足して日課を続けていた。
最近、この力に異変が訪れた。
オレの前を歩くオレの拳が、握られていることに気づいたんだ。
自分の手を確認するが、開いている。
いや、それどころか、よく考えたらオレは負けたときの合図なんて出したことがない。
不気味に思いながらも、オレはその男を追って歩くしかなかった。
オレの拳は、かたく握られていた。