2024-07-21

anond:20240721061333

また主は、このように言われた。

「神が隔てたもうたものを繋いではならない。それは血と不幸を生む」

 

かつて、大河によって隔てられていた二つの国があった。川の流れは急で、どのように頑丈に造った船でも渡ることはできなかった。

つの日かその川に、客を背中に乗せて渡るレプロボスという名の大男が現れた。二つの国の人間は便利になったと喜び、お互いの国では獲れない作物などを交換し合った。国はそれぞれ栄えたが、大男の背に乗った者たちが届けるのは物だけではなかった。彼らはお互いの国の様子を伝え合った。そうして二つの違った国は、どんどんそっくりになっていった。その国にしかなかった古き良きものは失われ、お互いの国で通じるもの貨幣のみが価値を持つようになった。富むものけが富み、貧しきものますます貧しくなるようになった。

 

この惨状を憂いた主は、大男の元を訪れ、渡河を頼んだ。レプロボスは幼な子の姿をした主を容易く背負い、いつも通り川を渡り始めた。主は大男の背で筆を取り出し、彼が犯してきた罪を一つずつ書き記していった。

大男は背に何かが書き込まれるたびに、背負う幼な子が重くなってゆくのを感じた。屈強な肉体はそれでも渡河を続けたが、川の真ん中でとうとうレプロボスは一歩も動けなくなってしまった。

主はそれでも罪の記入を止めず、大男の広い背中が墨で真っ黒になる頃、男は遂に川底へ沈んでいった。

 

自らの罪の重さで水底に沈み去る男の背からすっと翔び立った主は、このように言われた。

「隔てられている場所は、神がその意志によってそのようにされている。災いなるかな、繋ぐ者よ」

 

大男が沈んだ地は、“呪われた淵”という意味の「ネビス」と呼ばれ、今も禁足地となっている。

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