2023-12-30

小雨の行列

そして夕暮れの行列のことを思い出した。

駅前を出るまで気付かなかったが、雨が降り出していた。

いつものようにタクシー乗り場に行くと、珍しく長い行列だった。

急に肌寒くなっていて、薄暗くなった夕暮れの雨には気が滅入った。

早めに着きたいのに、タクシーは一台もなかった。

しばらくしてやっと来た車に一人が乗った。あとは又待つだけ。

そんな私の後ろに、毛布で乳児をくるんだ若い母親が立った。

赤ん坊は高熱があるようで、毛布を懸命に巻き付けていた。

タクシーはなかなか来なかった。

「お先に…」と言いかけて、

私一人が譲ってもたいした意味はないと気付いた。

そして行儀よく並んでいる姿に少しいらっとした。

新発売のゲームソフト購入や評判のラーメン屋行列をつくるのは自由だ。

しかし、それとこれを「行列、順番」で一括りにしてはいかんぞ!と思った。

「熱が高いの?」と声をかけると、心配そうに頷いた。

「寒くなってきているし、こんな所でグズグズしていたら、大変なことになるよ。

並んでいる人に、次のタクシーを譲ってくださいって云いなさいよ。お母さんなんだから

『突然、なぜそんなことを言われなければならないの』とでも言いそうな不安げな顔で私を見るので、

あなたがそう叫べば、みんな譲ってくれるから…」と再度促した。

決心した母親は列の前に進んで、大きな声でお願いをした。

ちょうどやってきた車に、先頭の男性が「乗りなさい!」と促した。

走り出す車中から、首をひねって何度も会釈する母親を、別のみんなが頷いて見送った。

なかなか来ないタクシー乗り場がしばし、「ああいうことが、私も昔あった…」なんて話で和んだ。

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