ちなみに自分は嘘をつくのが苦手だ。
ぬいぐるみの首元の縫い目が解れて裂け始めた頃、コレは本物の傷口だと思ったんだ。
リ○カで太い血管がない部分を深めに切ったことがある人なら、この感覚を分かってくれるか?
刃が皮膚を通った後、最初に出て来るのは血じゃなくて、真っ白な肉が小さな塊に分かれて出て来る。
肉が血に覆われるまでに数秒も掛からなかったはずだが、その不快な見た目は傷が塞がった今でも忘れることができない。
それまでは、切り傷は美しい物だと思っていたのだが、自分は浅いモノや切ってから時間の経ったモノしか見たことがなかった。井の中の蛙だ。
ぬいぐるみに話を戻すが、その裂け目は何ヶ月も放置され広がり続けている。
裂け目から見える綿は使い古された所為か、幾つもの塊に分かれてしまっている。
今では裂け目に手を入れて白い綿を中へ押し込むことが日常茶飯事だ。
裂け目を塞いでも中にある綿の塊は綺麗にならないことを思うと、どうにも直す気になれない。