あまりに馬鹿らしい話だから誰かに話したことはなかったんだけど、俺には物心ついたときから未来の記憶がある。あまり鮮明な記憶ではない
その記憶はどこかの店のトイレの鏡で自分を見て、すっかり老けたなと感じるところから始まる。そのまま少し物思いにふけったあと、トイレを出て席に戻るとそこには女性がいて(顔は思い出せない)、女性は俺に「終わったの」と問いかける。俺はなんのことを言っているのかわからず困惑するが、たしかに終わったのだと感じ即座に理解に至らなかった自分を恥じながら女性に「終わったよ」と返答をする。もちろんトイレの話ではない。トイレの話ではないが何の話かはわからない。女性は「そう」とだけ返事をして席を立ち二度と帰ってこない。俺はそのまま遅れてやってきた終わったんだいう実感に打ちひしがれながら席を立てずにその記憶は終わる。
この記憶が意味することは今でも俺にもわからない。でもなんとなくその時が少しずつ近づいているような気がする。すぐではないし数年後というほど近くもないが、たしかにその記憶の時が少しずつ近付いてきているという実感と不安が時折よぎるようになってきた。もうすぐ何かが終わる。