交叉した人角が刃物を見つめている時のような切ない神経の緊張を、感じさせる。
毎日陰気な顔をして、じっと居間にいすくまる。何をどうするのも苦しい。出来る事なら、このまま存在の意識もなくなしてしまいたいと思う事が、度々ある。
そこにあるのは、彼の心もちに何の理解もないものばかりである。「己は苦しんでいる。が、誰も己の苦しみを察してくれるものがない。」そう思う事が、既に己には一倍の苦痛であった。
ほとんど誰の眼にも、別人のようになってしまった。発作が強くなると誰も彼の側へ近づくものがない。
しかし彼自身の感ずる怖れには、始めから反抗のしようがない。前よりも一層幽鬱な心が重く頭を圧して来ると、この怖れが、己をおびやかすのを意識した。不吉な不安にさえ、襲われた。にわかに眼の前が、暗くなるような心もちがした。自分の尾を追いかける猫のように、休みなく、不安から不安へと、廻転していたのである。