ほっぺたの裏を歯で噛みきって、そこから血を飲むのが好きだ。
あまじょっぱくて、コクがあって、なんて甘美な飲み物だろうと。ほのかに温かいのも、なんだか体によさそうだ。
口の中の傷はちょっと段差ができていて、舌の感触と歯先の繊細な仕事で、少しずつ傷口を広げていくのも楽しかった。深くむしってしまうと痛いから失敗だ。血はすぐに止まってしまうので、一日のうちに何度も噛んだり薄皮をむしったりしては、また血をすする。禁断の美酒とは、このようなものをいうのだろうか。
でも大人になってからは、あんまりやらなくなった。しょっちゅう傷をつくっているのは、子供っぽいなと思ったからだ。
とは言っても、火傷とか、うっかり噛んだとかで口内に傷ができたときは、おもわず血が出るまで嚙み破って、ちゅうちゅう吸ってしまったけど。