私の母は体臭が強かった。
それは不快なものではなく、女性の香りといったものだ。
まだカミングアウトをしていない幼少期、母の香りを嗅ぐと複雑な気持ちになった。
自分が獲得したいものをこれ見よがしに振りまく母を恨めしいとも思った。
時は過ぎ、今は睾丸はなく、女性ホルモンを注射するようになった。
私の体臭は女性ホルモンの量に左右されるため、薬が切れてくるとそれが薄くなり、焦燥感にもかられる。
ホルモン注射をすれば体臭が蘇り、若き日の母に似た香りを放つ。
あの時私を苦しめていた匂いを嗅ぐと、辛かった日々をも思い出すが、
それが自分が出しているものだと自覚することで困難を乗り越えた気持ちになれるのだ。
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