幼稚園児だった頃の私に、ある日母がこんなことを言った。
「あなたのお父さんは、現場の仕事が好きで、出世したくないから2年ごとに転職をしていたの」
それを聞いて、私は父を誇らしく思った。気持ちをうまく言葉にできなくて、私は「そうなんだ」と相づちをうった。
母は言葉を続けた。
「でも、『もう転職をしないで』と言ったの」
「どうして?」
「あなたがこれから大きくなると、お金が掛かるから、出世をして貰わなくちゃならないからよ」
今度は母が誇らしげにする番だった。
家庭のためにしたいことを犠牲にする、それは母にとって大変素晴らしいことだったのだろう。
だが私は私は素直に喜べなかった。
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