第一回 第二回 第三回 第四回 第五回 第六回 番外その1 番外その2
コンセプトは、ニュースなんかで裁判の話が出たときに、そのことをきちんと理解して、
その内容を適切に評価する能力の涵養、です。毎度の長文申し訳ありません。
裁判員制度が、ちょうど来年の今日から始まります。ですが、あと一年という状況の割に、周知は進んでいません。
裁判員に選ばれる方式や、それに対する社会の状況も一大関心事ですが、
具体的な審理の方法については、それらよりもさらに知られていないのが実情ではないかと思われます。
死刑相当の判断が2(両方裁判官)人、無期懲役相当が2(裁判官と裁判員)人、懲役30年が3人、懲役20年が2人という風に意見を表明した場合、
最終的に処断されるのはどの刑なのかご存じですか?
本項では、あまり日の目を浴びていない裁判員制度裁判における審理の方式について取り上げようと思います。
初夏に効く裁判員制度裁判の審理で、ライバルに差をつけちゃえ!
基本事項をおさらいしておきます。以下、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」を法といいます。
・いちおう確認しておきます。
裁判員制度は刑事にのみ導入されるモノです!!
諸外国には民事にも非裁判官を介入させている国もあるんですけどね。
・裁判員とは、刑事事件において、証拠から事実認定をすること、有罪か無罪かを判定すること、量刑の選択をする者です。
証拠から事実認定をするというのは、たとえば、目撃証言から事件があったことを推認するような場合です。
有罪か無罪かを判定するのはそのまんまです。量刑の選択も言うまでもないでしょう。
これに対し、陪審制においては、事実認定をするにとどまります。混同されやすいところなので、よく押さえておいてください。
いずれにせよ、法律に関する判断はしません。法律問題は裁判官の専権であるからです。
・裁判員制度裁判に付される犯罪は、死刑又は無期の事件か、故意の犯罪(短期一年以上の犯罪)行為により被害者を死亡させた事件です(法2
条1項)。
具体的には、殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪(以上、死刑又は無期の類型)。
危険運転致死罪、傷害致死罪、保護責任者遺棄致死(以上被害者死亡の類型)などがあげられます。
よく言われることですが、ヘヴィーな事件ぞろいです。
もっとも、事案の難しそうな場合には通常の裁判(裁判官3人の合議体)に付することも出来ますし(同7項)、
事実に争いがなく、争点が明確な場合には、裁判官1人+裁判員4人という変則な方式も認められます(同3項)。
従来の裁判は、一つの事件を一ヶ月おきに審理していました。毎日違う事件を行っていることから五月雨方式と呼ばれます。
五月雨方式ですと、いきおい審理が長期化してしまいます。
裁判員を拘束することになるので、裁判員制度裁判においては連日審理が義務づけられています。
また、争点整理手続が必ず行われることになっている(法49条)ので、争点はあらかじめ炙り出されていることも審理の短縮に繋がります。
さらに、一人の被告人が多数の犯罪を行った場合には、ある部分を区分して部分判決(法78条)が可能とされ、長期化を防ぐシステムになっています。
裁判におけるさまざまな意思決定は原則として評議により行います。
裁判官だけが関与する、法律問題についての評議は、裁判官のみの合議で決定します(法68条)。これは普通通りです。
法律問題以外の、事実認定、有罪無罪の判断、量刑判断については、裁判員と裁判官で評議が行われます。
そして、その意思決定(評決)には、裁判員と裁判官を含んだ過半数(ここでは特殊過半数と言いましょう)が必要です(法67条1項)。
つまり、裁判員6人が無罪としても、裁判官3人が有罪とすれば、評決は成立しません。
これは地味に難しい要件です。
では、冒頭で述べたとおり、量刑についてみんなマチマチだった場合はどうなるのでしょうか。
一方で、その多寡が重要な意味を持つので、個人の意見をなるべく尊重するシステムが望ましいです。
これについては、法67条2項が定めています。
ちょっと難しく表現してあるのでフローっぽくすると、
一番重い刑を主張する人たちだけで特殊過半数を越えないか。→越える→その刑が処断される。 ↓越えない それに、次に重い刑を主張する人たちの人数を加えると特殊過半数を超えないか。→越える→次に重い刑が処断される。 ↓越えない さらに三番目に重い刑を主張する人たちの人数を加えると特殊過半数を超えないか。→越える→三番目に重い刑が処断される。 ↓ ・・・(この作業の繰り返し)
となります。これを条文にすると小難しくなるのが理解いただけると思います。
冒頭であげた例ですと、懲役30年が処断されることになります(なぜそうなるかは各自で検討してみてください)。
裁判員制度はあくまで第一審にのみ適用があるものです。
被告人は裁判員制度の導入については不服を申し立てることは出来ませんが、通常通り上訴することは出来ます。
上訴審では、裁判員は登場しません。通常通りの上訴が行われます。
第三回でお伝えしたとおり、刑事裁判の上訴では事後審主義を採用しています。
これは、証拠資料の追加を認めず、原判決と同じ証拠資料を用いて、第一審判決の当否を審査する方式です。
要するに、上訴審の裁判官は裁判員が関与した事実認定を「適当でない」と判断することが可能な方式です。
となると、「結局上訴で職業裁判官だけが決めるなら裁判員が判断したことは無意味じゃねーか。
それなら導入しなくていいじゃねーかよ」と思われるかも知れません。
というか自分も思いました。でもそれだけじゃつまらないので、ネットで審議会の情報を引っ張ってきました。
審議会でもこの点は議論が交わされたようです。
おおむね現状通り裁判官だけの上訴審で構わないという意見でした。
高裁でも裁判員を選ぶとなると、裁判所管区の都合でかなり遠方の人が選ばれてしまう可能性があること(たとえば新潟も東京高裁の管轄です)、
まずは第一審で導入して定着してから議論すべき事項であると考えられること、
適当でないと判断した場合には差し戻すことで再び裁判員の判断を仰ぐことが出来ること(これに対しては時間が無駄という反論も)、
などの意見がありました。結局、通常通りの上訴となるという結論になったようです(最高裁の見解が表明されています)。
ちょっと疑問ですが、バランスのつけ方の一つとしては仕方ないと私は思います。
法律問題としてはもっと議論すべき論点だと思います。
裁判員制度は刑事事件に導入される。そこでは事実認定と、有罪無罪の判定、量刑判断をする。 裁判員制度は重大事件ばかり回ってくる。基本的に裁判官3人+裁判員6人だが、事案によっては人数が減ったりする。 一週間程度で集中審理する。 審理は裁判官・裁判員両者を含む多数決で決する。量刑の判断は特殊。 上訴では裁判官のみが判断する。裁判官のみで裁判員の判断を覆すことについては議論がまだ深まっていない。
長文申し訳ない。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080108-00000002-yom-soci 今日福岡地裁で出た判決。 事件の概要はご存知のとおりなので省略させてもらうが、審理の経過や判決について疑問を持つ...
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